表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/115

次はトイレだ! ろく

 木剣を両手で握ったエドガーが、正面から打ち込んで来るのを、2回、3回と片手で受け流すと、そのまま剣をくるりと絡めて上から抑え込み、ちょっとした力比べに持ち込む。


 もちろん左手は優雅にスカートをつまみ、顔には笑みを浮かべたままだ。これにはエドガーも少し驚いたようで、直ぐに力比べを止め、後ろに飛び退る。


 慎重に距離を取りながら、じりじりと円を描くように移動しているけど、わたしはさっさと終わらせたいので、こちらから仕掛ける。


 ダンッ!


 一気に距離を詰めると同時に、


 ブォン!


 斜めに振り下ろす。 


 ガンッ!


 エドガーは受けるのが手一杯なのが判り、剣をかえすと、そのまま横に薙ぎ払った。


 ガキーンッ!


 エドガーの木剣が飛び、ウォルドがそれを飛び上がって、受ける。


「そこまで!」


 じい様の声が上がった。


 よし、終わった!年下の従妹に負けたのはショックだろうけど、これでわたしを稽古に誘うことは、無くなるだろう。

 締めくくりに乙女の礼をすると、ウォルドが弾むような足取りで、エドガーの剣を咥えて持って来た。


 お利口なワンちゃんから剣を受け取り、その顔をワシャワシャと撫でていると、


「やっぱり強いな!前に、一発入れられた時に、もしかしたらって思ったけど、まさか力比べで負けるとは、思わなかった。でも次は簡単にはやられないからな!」


 新しい剣を手に、2回戦を始めようと急かしてくるエドガーに、こいつは年下に負けたことよりも、強い相手と稽古ができることが嬉しいタイプだと気づく。え、めんどくさ……


「ねぇ、聞いて良い?稽古って、何回戦までするの?」


「何回とか決まってないよ。でも稽古は毎日大体1時間かな。ホントはもっとしたいけど、エミィの手伝いもあるしな」


(1日1時間稽古していて、まだ足りないの?!)


 驚いて開いた目と口を、手を使って閉じる。危ない、危ない。乙女にあるまじき顔に、なっていたわ。でも、まあ、約束したのだから、1時間、稽古に付き合おう。

 上手くやれば、さっきみたいに、ウォルドと『取ってこい』が出来るかもしれないし。


 ガンッ、ゴンッ、カーン!


(ほーらウォルド、取ってこーい)


 カンッ、ガンッ、コーン!


(今度は高いけど、がんばれー)


 ウォルドはクルクルと舞い上がる木剣を、見事に受け止め、持ってくる。そのたびに頭をなでてやり、エドガーは新しい木剣を出してきた。お陰で、今わたしの足元には、5本の木剣が並べられている。何で?


 確かにワンちゃんのヨダレが付いた剣は、使いにくいかもしれないけど、ちょっと拭けば良いだけだ。何でだろうと思ってたら、エドガーが剣を持って行こうとしたら、ウォルドが唸って嫌がることが判った。


(自分のおもちゃだと、思ってるのかな?)


 結局、8本剣が並んだ時点で、今日の稽古は終わりとなった。予備の剣が無くなったからだ。並べられた剣を集めて、じい様に渡して、もう一度ウォルドをなでる。あぁ、やっぱりコッチのほうが楽しい。私は剣よりも、ワンちゃんと遊ぶ方が好きだわ。



 朝食後、いつものメンバーとダンジョンへと向かう。何も問題無ければ、今日で作業は終了だ。


 昨日造った便座はそのままちゃんと残っていたので、残していた便座の内側を整え、ヘンチョの穴も十分な深さを取る。


 後は便座の横の壁側の地面を少し掘って、2階層にあったペラの葉を、土ごと移植して、入り口の両脇に、中央で葉が重なるようにしてグンニーラを植えたら作業は終了だ!掘って出た土は、忘れず採取した穴を埋めるよう、アルノーさんにお願いした。


 最後に、エドガーが採集したヘンチョを入れると、完成だ。


 扉代わりの4枚の大きな葉っぱの前に立ち、みんなで眺める。


「出来たね。扉無いけど」


「そうね。でも一応、目隠しにはなってるし」


「なぁ。もう、これで良くない?」


「お疲れ様でした。でも、扉は(娘のためにも)欲しいです」


 意見はそれぞれだけど、明日の朝まで待って、何も問題無ければ、ダンジョントイレ第1号の完成だ。ただし、固定化するのは、5日経たないといけないけどね。




 翌日、起きた時から浮かれていたわたしは、エドガーにせがまれるままに、剣の稽古と『取ってこい』をこなし、朝食後にいつものメンバーと、父さまを引き連れ、ダンジョンへと向かった。ドキドキしながらトイレに近づく。


(変わって無い!)


 トイレは昨日と変わらず、そこに存在した。


「やったー、できた、できた。1号よー!!」


「おめでとうエミィ。では、一旦王都に帰ろうか」


えっ、父さま、今なんて?


「王都だよ。そんなにびっくりしなくてもいいだろう。『馬車につけるトイレ』と『組み立て式トイレ』の特許が通ったことで、うちの商会は忙しくなりそうなんだよ。いったん戻ってやらなければならない仕事が山積みだし、今回のダンジョントイレの特許申請は、ちょっと、ややこしくなりそうだからね」


「出発はいつ?母さまはどうするの?」


「出来たら明後日ぐらいには出たいかな。アンジェリーネはもう少し体調が安定するまで、こちらに居てもらおうと思ってる」


 明後日かぁ。とりあえず急いで出来る事をしてしまわないと、間に合わないかもしれないと思ったわたしは、早速午後から石を平らにする魔圧機と、魔獣避けの型や専用インクを荷馬車に積んで、オングル村へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ