表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/115

次はトイレだ! ご

 昨日の夜、『愛される娘気分』を満喫したわたしは、今日も朝から皆と一緒に、ダンジョンへと向かっていた。


 今日は順調に大きくなっている窪みの奥の、壁面の岩を使って、便座の形にする予定だ。これが出来れば、窪みは一気にトイレらしくなる。


 エドガーに頼んでいた【採集したヘンチョの観察】も順調で、毎日【変化なし】と書かれている。これは『窪みの中で、ずっとモニュモニュ動いている』ということなので、きっと出来たトイレに移しても、大丈夫だ。


 アルノーさんに頼んだ植物の【移動】に関しては、()()()()()()()()()れば、次の日も、植え替えた場所にあることが判った。ただし、その時できた()をうっかり埋め忘れると、原状回復が働くらしい。

 そして階層が違っても、移動出来る事も確認できた。ただし、2階層の物を3階層に持って来たら、3階層で植えるために新しく掘って出来た土を持って、2階層の穴を埋めないとダメらしい。ちょっと面倒くさいけど、それさえ忘れなければ【移動】は出来るというのが、アルノーさんの結論だ。


 **


 あっちを引っ込め、こっちを出っ張らせてと、便座の形を作る。内側とヘンチョ用の穴は明日だ。結構深く掘らないといけないから、うっかり原状回復が働いたら

困るからね。

 

「こんな感じかな?」


 出来上がった便座に、座ってみる。座面はまだ平らだから、普通に座れるけど、通常の大きさに合わせているので、足が浮く。それでも、ここまで出来たことが嬉しくて、笑い声が漏れた。


「くふふっ、ふへへっ」


 「完成も近いわね。ここまで来たら、そろそろ特許の申請書を書き始めないとねぇ」


 師匠の言葉に、顔が固まる。あの『すごーく、めんどくさいやつ』のことを、忘れていた。一応全部の記録は図と一緒に残してあるけど、何をどれだけ書けばいいのか、全くわからない。

 ちらりと師匠の方を見ると、ニコニコしてるけど、指でペケマークを作っている。あれは『面倒だからヤダ』の合図だ。


(いっそ記録を全部送って、特許申請部に丸投げにしようか?)


 思ったけど、再提(最低)魔人の嫌みが聞こえて来そうだから、止めにした。


「そうだ!せっかく父さまが帰って来たんだから、父さまに丸投げしよう!だって、一応、商会が引き受けた仕事だしね。うん、そうしよう!」


 父さまに新たな仕事が用意出来たところで、今日することは全部終わったので、屋敷に戻ることにした。



 昼食後、なぜか父さまが庭で『組み立て式トイレ』を組み立て始めたので、ウォルドのお腹をワシャワシャしながら、そばで見ていると、


「エミィ。屋根はどうするか、考えた?」


「あっ……」

 

 『今後の課題』言われてたヤツ、きれいサッパリ、うっかりポッカリと、忘れていたわ。既に問い合わせが来ている建築現場や、野営地に設置するためには、屋根が必要になる。

 長期用の頑丈な屋根は、既に別売り品として作られているので、欲しいのは1日、2日使う時用だ。


「だけど、これ以上部品を増やすのもなぁ……」


「このトイレに屋根がいるの?だったら、こうすればいいだろう」


 わたしの横で、おそるおそるウォルドを眺めていたエドガーが、組み立て式トイレの袋を、ひょいっとトイレの上にかけたのだ。


(その手があった!)


「エドガー、あんた天才!父さま、これで行きましょう!袋の材質や留め金の工夫は縫製部に頑張ってもらえば、何とかなると思うし!」


「そうだね、これなら余分な物が増えるわけではないし、早速連絡しておくよ」


「あっ、実はついでに、お願いしたいことが……」


 わたしはこれまでの記録を取って来て、ダンジョントイレの特許の申請書類について、父さまにお願いした。記録をしばらく眺めた父さまは、ため息をつきながらも、引き受けてくれた。助かった!!


 めんどくさい事の丸投げがすんだわたしは、天才だとほめられたことで、まだニヤニヤしているエドガーに、お礼を言いに行く。


「ありがとう、エドガー。助かったわ。なんかお礼をしたいけど、何がいい?」


「ウーン…じゃぁさ、明日の剣の稽古、エミィも一緒にしようぜ!」


「稽古?」


 エドガーが毎朝、じい様と剣の稽古をしているのは知ってたけど、お礼が一緒に稽古とは、ちょっと不思議すぎて、驚いた。いや、確かに何がいいか聞いたのは、わたしだけどさ。……ちくしょう、運動小僧の思考回路を甘く見ていたわ。

 それでも約束は約束なので、翌日、わたしはじい様とエドガーの早朝稽古に、付き合うことにした。


 **


 早朝の冷たい空気が、気持ちいい。そしてウォルドが可愛い……


 今、屋敷の庭にいるのは、木剣を両手に持ち、ニコニコしているエドガーと、面白そうにこちらを見ているじい様。そしてウォルドとわたし。それにしても、ウォルドは可愛い……

 いや、いい加減あきらめて、現実に向き合おう。これは約束だ。


 半ばあきらめの境地で、木剣を受け取ると、エドガーが剣の持ち方を教えてくれるが、じい様はやっぱり黙っている。だけど、絶対気づいているのが、なんとなく判った。

 

「エドガー。わたし、母さまに習っているから、大丈夫だよ」

 

 エドガーに言う。


「叔母さんに?」


「そう。だって、うちの母さま、あんたの父さまの妹で、じい様の娘だよ?」


「確かに、そうだな」


 それで納得されるのも、どうかとは思うけど、これ以上剣が使えるのを隠しておいても仕方ない。実は3歳のころから、時々母さまに稽古をつけてもらっているのだ。

 『強く、正しく、麗しく』というのが、母さまの主義で、そのため『戦う時も麗しく』動くように、教えられている。もちろん身に付けるのは、専(戦)用のドレスだ。


 乙女剣士は、華麗に舞うように敵を倒すのだ!ふへへん!


 もっとも、毎回、身体強化を使いすぎだと注意されてはいる。


「じゃぁ、軽い打ち合いからな!」


「わかった。ねぇ、エドガー、遠慮とか手加減なんて、しなくても大丈夫だからね」


「俺、身体強化使えるけど、いいのか?」


「うん、大丈夫」


 身体強化が使えるなら、こちらも遠慮なしで行っても大丈夫だろう。距離を取って構え、じい様の合図を待つ。


「始め!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ