次はトイレだ! よん
私の異世界における、長さ・距離の単位です
ミィルト(mi)、フィルト(fi)
100ミィルト=1フィルト=1メートル程度
翌朝、わたしはみんなより、一足先にダンジョンヘと向かうことにした。アレがまた復活していないか、確認しておきたかったからだ。
もちろんエドガーには、窪みが残っているか、気になるからと言ってある。これは嘘じゃない。
朝の清々しい空気の中、走ってダンジョンへと向う。中に入ると、すぐに地面をじっくりと見て回った。
よし!消えている。心配事が消えた喜びで、連続片足ターンをキメる。今なら何回転でも出来そうだと思ったけど、15回目で気持ち悪くなったので、止めた。
そこでようやく、窪みを作った壁に目を向けると、そこにはいくつもの窪みが、昨日と同じ様に残っていた。
こっちも成功!でも、一番大きな物と、2番目に大きな窪みは無い。ペタペタと壁を触りながら確かめていると、師匠達が到着した。
師匠はさっそく壁を確認すると、
「どうやら、変形にも、限度があるようね」
「じゃあ、これ以上大きいものは作れない?」
残っているのは、縦100mi横50mi、そして奥行き50miの物と、それよりも小さな物だった。これじゃあ、トイレにするには小さすぎる。
「それはやってみないと、判らないわ。まずは、今残っているこれらの一部を、倍の大きさにしてみましょう」
「そうか。一度で出来なくても、何回かに分けて、大きくすれば良いんだ」
今日は、わたしと師匠が【変形】をしている間、アルノーさんとエドガーには、【移動】の調査をお願いすることにした。だって、トイレの側にはペラの葉を植えたいし、当然、便器にはヘンチョを入れないと、色々と困るからだ。
まぁ、ヘンチョは一応生き物だから、ダンジョンの原状回復の影響は受けないかもと、師匠は言っていたけど、念のためだ。
【変形】が大丈夫なら、【移動】もいけるのではないかという仮説の元、採集したヘンチョを、同じ層の別の場所に移して置いておくと、どうなるかを調べてもらうのだ。なのでエドガーにはヘンチョの採取を、お願いすることにした。採取したヘンチョは、【変形】で作った窪みに入れて、しばらく観察する予定だ。
そしてアルノーさんには、ペラの葉とグンニーラという植物が3階層にあるというので、こちらも【移動】出来るか、調べてもらう。
グンニーラは、わたしの背丈より大きな葉っぱが二枚から四枚生える植物で、扉の解決方法をいまだに思いうかばないため、いっそこれを扉の代わりにしようと思ったのだ。
持ってきたバケツとスコップ、そしてヘンチョ用の篩を渡して、必ず掘った穴は埋めるようにお願いする。そして念のため、2階層と3階層を使って検証するよう言うと、とたんにエドガーが張り切りだした。アルノーさんが、3階層には、スライムや、岩蝙蝠などが時々出ると言ったからだ。
どちらも、子供でも退治できると言われている魔獣だ。
「判ってたら、剣を持って来たのに」
不満を口にするけど、顔が笑っているから、説得力はゼロだ。
「岩蝙蝠は、弓矢の方が倒しやすいですよ」
アルノーさんに言われ、明日から弓矢を持ってくると、はしゃいだ声を上げる。その情報に、使えそうだと思い、頬が緩む。頭の中で次の計画が出来上がっていくけど、今はトイレの事に集中することにした。
(これが完成しないと、あっちも実現しないものね)
ヘンチョ観察用の窪みを作らないといけないので、わたしも一緒に下の階に降りていく。階段状の岩と坂道で、それ程大変な道ではない。
(これなら、あっちの計画も問題なさそう。ふへへっ)
2階層と3階層に一つずつ窪みを作ると、戻って自分のすることをした。
屋敷に戻ると、ちょうど寄り合い所の設計士さんと測量士さんが到着していて、今からクルグ村に向うところだという。
測量士さんは特殊な土魔法が使えるとかで、地質調査も一緒にする聞いて、わたしは一緒に行くことにした。
魔力を地面に透して、地中の深い処まで調べることが出来るという。
「大きな岩や水脈がわかれば、排除するための準備をしたり、そこを避けて建てたり出来るし、井戸の場所も決めやすいからね」
村に着くと測量士さんは、そう説明しながら、地面に手を少し埋め、魔力を通していったく。
横で真似してやってみるけど、まったく判らなかった。どうやらわたしには、地質調査の才能は無いみたい。残念だけど、金鉱山を見つけて一山当てるという夢は、一瞬で消えてしまった。
次の日、倍の大きさにした窪みは、全部残っていた。
なので、大きい方から2つだけを、昨日と同じ体積分窪みを広げる。途中で色々と出てきて、すごく欲しかったけど、我慢した。
そうやって、毎日少しずつ少しずつ広げ、トイレの形に近づけていった。
そんなこんなをしていたら、父さまが帰って来た!
時々連絡はもらっていたものの、父さまの無事な姿を見て安心した母さまが、父さまに抱き着いて離れないのは仕方がないかもしれない。
なんせ今回の視察、辺境伯の領地を出たとたんに、2度も馬車が襲われたらしいのだ。幸いにも、いつもより護衛が多かったお蔭で、無事だったのだけど、
「どうも変だったんだよね。荷物を奪うというよりも、僕を襲うのと、馬車を奪うのが目的みたいでさ。普通盗賊なら、まず狙うのは積荷だろう?」
確かに、それは何か変だった。いくら支店の視察旅行とはいえ、商会の馬車が動くのだから、当然ながら馬車の上には、商品がたっぷり積まれている。
馬車なんて目立つものを取るよりも、小分けの利く商品を奪って売りさばくほうが、足も付きにくい。
おまけに人が殺されたとなったら、憲兵による山狩りが行われたりするから、かえって自分の首を絞めるようなもんだ。
じい様が、護衛につけた騎士さん達にも話を聞くといってたから、詳しいことが判ったら、また教えてもらおう。
ということで、とりあえずソファに座る父さまと母さまの間に、自分の体をねじこむ。いや、寂しかったのは別に母さまだけじゃ、ないからね。私も十分寂しかったんだから、ちょっとばかり『愛されている娘』気分にひたらせてもらおう。
ちょっとエドガー、こっち見て笑ってないで、さっさと部屋に戻ったら!




