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次はトイレだ! さん 

 しかも、破壊したはずの花と名前は、元通りになっている。なぜ?!


「あれ、壁の穴、全部元に戻って…えっ、何するんだよ!」


 取りあえず乙女の持ち物(ハンカチ)で、エドガーに目隠しをして、ほどかれないよう、両手首を掴む。


「おい、離せよ。これじゃぁ、何も見えないだろ!」


「エドガー、悪いけど1000数える間、黙ってて」


 ドスを効かせた声で言う。


「……判った。いち、にぃ、さ」


「頭の中で数えて」


「……」


 エドガーが静かになったので、師匠に質問する。


「どうして、全部元に戻ったのに、これだけ残っているの、師匠?」


「どうやらダンジョンは、この状態を原状だとしているようね」


 師匠の言葉に、アルノーさんも頷く。


「えーっ、だったら、これってずっと、このまま?」


 いや、そんなの恥ずかしすぎる!あぁ、これから毎朝ここに、踏み潰しに来なくちゃ。大人になって、おばあさんになってもずーとだ。でも、死んだあとはどうしよう。それに病気とか怪我とかで、来れなくなったら?! 


 頭の中を色んなことが、ぐるぐると回っていく。


「落ち着いて、エミィ。取りあえず魔力を使って、平らにしましょう」


 師匠に言われるまま、片方の足に魔力を通し、穴を埋めて、平らにしていく。少し遠い所は、つま先でていねいになぞり、全部きれいに消えたところで、エドガーを捕まえていた手を離した。

 エドガーは、すぐに目隠しをほどいたけど、黙ったままだ。きっと、まだ1000まで数え終っていないのだろう。


「さて。それじゃあ昨日したことを、確認していきましょう。それも、採取しなかったら、原状回復は働かないという仮説は、正しいと言う前提でね」


「先ずは、入っきてすぐにアレを見つけたから、踏み潰した」


 指折り数えながら、昨日の行動を声に出していく。 


「次に壁に穴を開けて、銀鉱石を見つけた。そこで、さっき師匠が言った仮説を立てて、幾つか大きさの違う穴を開けた」


「その間に、わたしがここらへんに、穴を少し開けてますね。土魔法は使えないので、風魔法で削ってですが」


 と、アルノーさん。


(あれ?よく考えたら、壊して、採って、削ってって色々してる……)


「じゃあ、あれを描いたときは、どうだった?」


「前の日に置いた箱が消えてるのを確認して、アレを空けて、帰った。その次の日からは、扉の工事が始まったから、昨日までは、ここには来なかった」


「工事の間、冒険者は入ったのかしら?」


「たぶん、入ったと思う。立入禁止には、してなかったから」


「あぁ、でもここで何かを採ったりは、おそらく誰もしていないと思いますよ。元々この層には、この薬草以外は、取り立ててめぼしいものは、ありませんから」


 アルノーさんが、直ぐ側に生えているつる草を指さす。小さいが、香りのよい花がいくつも咲いていて、かわいらしい。この花の部分が、熱冷ましの材料になるらしいが、乾燥させたものが薬師のところで手に入るため、それ程需要は無いらしい。


 それに、ダンジョン常連の冒険者達は、転移ポイントを使って下の層に行くため、5階層より上に居ることは、あまり無いという。


「だったら5日の間、誰も何も採らなかったってこと?なら、それと同じことをすれば、窪みは消えずに残る?!」


「そうね。まずはやってみましょう」


「1000!もう、しゃべって良いよな」


「うん」


 ようやく数え終わったエドガーは、なぜか口を大きく開けたり、閉じたりしていた。




 新しく立てた仮説、【変形以外、何もしないで5日経てば、その状態を原状として、ダンジョンが記憶する】。それに基づいて、検証をすることになった。

 師匠の指示でわたしが窪みを作り、アルノーさんがその大きさを測り、エドガーがメモを取る。

 そうして大きさの違う窪みを、全部で12個作ると、今日することは、終わってしまった。


「続きは明日、確認してからにしましょう」


「えっ、5日後に来るんじゃないのか?」


「エドガー。5日間は、あくまでも仮説だから。それに、色々と確認したいこともあるから、毎日来るよ」


「そうなんだ。なんか、面倒くさいな」


 不満げな従兄を見ながら、確かにせっかくダンジョンに入ったのに、記録取るだけしかしてないから、つまらないと思うのも、仕方がないと思った。


 運動小僧には、もっと体を動かす仕事の方が、良いのだろう。

 なので午後からは、届いたばかりの荷車を、荷馬車に山積みにする仕事を頼むことにした。全部で11台。ついでに木の杭の束をいくつかと、木槌も積んでもらう。 


 荷台に乗れないので、御者席に三人並んで座る。ぎゅうぎゅう詰めの状態で、村へと向かった。今日は、一番大きなウルスの村からだ。


「なぁ、荷車の裏に書かれてるの、あれなんだ?」


「あれは重量軽減の魔法陣。あれのおかげで、乗せている荷物の重量が3分の1になるの」


「ふーん、もっと良いのは無いのか?例えば10分の1になるやつとか」


「あるけど値段が高くなるよ。大体3倍近くになる」


「げ、そんなに?」


「うん。だから、寄り合い所にお金がかかる分、抑えるところは抑えとかないと」


「そうだな……」



 村に到着したら、早速村長さんのところに行く。エドガーに荷車を4台降ろしてもらいながら、村で必要だと思われる魔除け石の数だけ、その材料となる石を集めるようにお願いした。石の大きさは大体大人の頭ぐらいの大きさ。それより小さいと、魔法陣が描けないのだ。


 ついでに木の杭を打ち付けて、村の拡張部分を伝える。おおよそ道側に向かって50メートルほどで、そこに荷車置き場を作る予定も伝えた。

 同じことを他の四つの村でも行い、それぞれの村人の数に合わせた荷車を置いていく。もちろん、その荷車は報酬として、村に渡されることも伝える。これには、子供たちが喜んだ。畑の作物を収穫したものを運ぶのは、子供達も手伝うのだが、これが結構な重労働だからだ。


 あとは寄り合所の説明をしつこく聞かれたりもした。どんなもので、いつできるのかと服を引っ張って聞かれたときには、さすがに困ったけど、こちらとしても本格的な冬になる前には、何とかしたいと思っているのでそう伝える。

 そうやって、全部の村を回り終わったら、もう日が暮れていた。

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