従兄弟登場! よん
「まずこうやって、井戸と洗濯場の周りを壁で囲うの!」
新しい紙を出してきて、地図を見ながら図を描いていく。洗濯場のある井戸は開けた場所にあるから、その横に寄合い所を建てても大丈夫だ。
「扉は大きい物が良いな。洗濯が終わったら、風通しのためにも開けたいし!」
井戸の周りは大抵ジメジメしているから、石や砂利で周りを固めてある。オングル村の洗濯場は大きな石の洗い場が2つ、向かい合わせにあり、周りには石が敷かれ、使った水を流す溝も掘られていたけど、辺りは結構濡れていた。
村長さんが洗濯場に欲しいのは、囲いではなく壁だと言ったのも、そのためだろう。
(将来的には、洗濯場も新しくして、溝も、石を使った幅広の物に変えたいよね〜)
想像していると楽しくなってきて、どんどん描き進める。
屋根は、暗くなるから全部は要らない。半分位かな。もちろん寄合い所につながるドアもつける。これで冬場の洗濯に、お湯が使える!
1人で洗濯するために、わざわざお湯を沸かすのは薪が勿体ないけど、皆で洗濯するなら、それ程でもないだろう。それに、寄合い所には最新の薪ストーブを置くつもりだから、寄合い所を温めるついでに沸かしたお湯で、洗濯が出来るはずだ。
そして寄合い所のキッチン横には、薬草の保管場所と薬草畑につながるドア。これで簡単な手当は、ここで出来るだろう。
描き上がった寄合い所は、皆が集まって過ごせる上に、冬場の洗濯の辛さを減らし、簡単な治療もできる場所になっていた。
えっ、これってすごくない?!ふへへっ、わたしって天才かも!
出来上がった画を眺めて、にんまりする。どうだといわんばかりに、じい様に見せると、驚いた顔をしたけど、すぐに笑いながら褒めてくれた。
「その案で、急ぎ設計にかからせよう。現地の調査の手配もだ」
「あっ、地面を固めるのは、わたしも出来るからね!」
「判った。使い方を考えても、秋の間に建てた方が良かろう。しかしそうなると、薪をどうするか、だな」
「あっ……」
この辺りでは、村全体で一冬分の薪を準備する。春から夏にかけて、近くの森や林で木を切って乾燥させ、それを寒くなる前に手頃な大きさにして、村の薪小屋へと運ぶのだ。もちろん、好き勝手に使って良いわけではなく、家ごとに割当が決められている。
今回、寄合い所の分が増える形になるから、その分をどうするかは、確かに大きな問題だった。
「上手くいけば、皆が寄合い所に集う分、それぞれの家で使う薪は減るだろうが、それを最初から当てにしていてはいけない。今回はこちらで用意するか、村から買い入れる形にするのが良かろう」
村で余った薪は、町で売られるらしいから、それを買い取るなら問題ないだろう。じい様の提案に頷く。
「よし、それで決定だな!後はおもちゃがあれば、全部の問題が解決だ!」
エドガー。あんた、うるさい。ちょっと黙ってて!
しつこく『おもちゃ』にこだわるエドガーを無視して、わたしはじい様と注文書を記入していくことにした。
まずは魔獣よけ用の魔法陣の金型に専用インク、小型の手押し車だ。これは他の村でも要るだろうから、余分に数字を書き入れていく。
まだ2つの村しか周ってないけど、寄合い所は、全ての村に建てる事になった。
「これって、かなりの量の木材を使うから、値段が上る前に買いたいな」
「ならば、仮押さえをしておこう」
「でも、大体でも量がわからないと、難しいでしよ?」
「町の寄合い所を建てた時の資料がありますから、それを参考にしてはいかがです?」
レノーさんが持って来てくれた資料を見ながら、実際の建物を思い出す。
(これほど広くはないけど、二階や洗濯場の事を考えると、同じ位、かかるかも……)
悩んでいると、木なんぞ、少々余っても問題ないとじい様に言われたので、だったらと、資料の4倍近い数字を注文書に書くことにした。
それが済むと、洗濯場の溝や薬草畑以外で、寄合い所に欲しい設備を書き出していった。キッチンにはパン焼き用のオープンが欲しいし、管理人さんが住むための部屋もいる。窓は、できればガラスを使いたい。
(ついでだから、師匠に魔獣よけの魔法陣を刻んでもらおうかな……そしたら何かあった時も大丈夫、だよね?)
残りは、他の村を回ってから、考える事にした。何か新しいことを、思いつくかもしれないからだ。
書き上がった書類を全部、紙挟みにまとめてから、今日、エドガーの描いた地図を机に置いた。
エドガーが半日だけど頑張った結果を、じい様にも見てもらおうと思ったからだ。風変わりで、余計なものが多いけど、建物の場所や畑の場所なんかは、間違ってはいない。
「えっ、それ見せるのか?」
それまで退屈そうにしていたエドガーが、真っ赤な顔でスケッチブックを引っ張ろうとしたから、すかさずその手を捕まえる。ふへんっ、甘いな!
「これを、エドガーが?」
じい様は暫くの間、それを眺めていたけど、
「エドガー。これまでに迷子になったことは、あるか?」
真剣な顔で聞いてきた。
「それは、無いけど……」
エドガーが首を傾げながら答える横で、わたしも同じように、首を傾げた。
地図を見て、迷子の心配って、どういう事だろう?
***
今日向かうのは、ウルス村とセザム村。エドガーは当然、地図係として同行している。ウルス村は町から南東に進んだ所にあって、4つある村の中では一番大きく、住んでる人も百人ほど。少し遠いけど、青空の下で荷馬車に揺られながら、お喋りしている間に到着した。
ここでも洗濯場と町から離れている事が問題だったけど、魔獣の被害はそれ程ないらしい。それよりも、大型の野生動物の方が問題だと、村長さんに言われた。
「秋も半ばになると、ヘラツノ鹿が柵を壊して入ってきて、芽が出たばかりの小麦や、葉物野菜を食べるんです」
ヘラツノ鹿は名前の通り、平たい角を持つ大鹿で、気性も荒い。そのため、手製の武器で追い払ったり、狩ったりしているが、毎年怪我人が出るという。
手製の武器も、見せてもらった。棒の先に鎌の刃を着けた物で、狩りの前には皆で集まり、練習もしていると教えてくれた。
「出来るだけ、沢山狩りたいんで、つい無理をしがちでして。アイツラの角は細工物になるし、肉は春祭りで人気の串肉の材料なもんで」
村長さん自身、去年怪我をしたのだと、腕を擦りながら言う。
(ウ~ン。だったら、そういう事を教えれる人を、寄合い所の管理人にするのも良いかも?定期的に練習すれば、怪我も減るだろうし……後、罠も幾つかあれば良いよね)
セザムの村は、更に東側へと進んだ先で、ウルス程ではないけど、こちらも80人程住んでいる。そして、なんと薬師見習いがいた。
なんでも、他の町の薬師の所で、見習いとして働いていた人に頼んで、村に引っ越してもらったらしい。住む場所は、村の空き家を皆で修理して、用意したという。
「古い建物なので、申し訳ないと思っていますが、ここでは些細な怪我が、命に関わります。簡単な手当をしてもらえるだけで、違ってくるので」
正式な薬師さんになる頃には、新しい住まいを用意して上げたいのですがと、村長さんは頭を掻きながら俯いた。
薬師には、2年に一回、領主が行う認定試験に合格すればなれる。次の試験は来年の春のニ月だという。
(ここだと、薬師さんを管理人にするほうが良いかも?)
新たに思いついたことを忘れないよう、アルノーさんからメモを借りて書き込んだ。
翌朝、ダンジョンの扉の完成報告が来ると同時に、師匠が到着した。