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従兄弟登場! にぃ

 初めて出来た部下に、初日に逃げられた……

 だけど、逃げた部下を追いかけたって、仕事は終わらない。それに、もしかしたらちゃんと、子供たちの話を聞いて来るかもしれない。

 そんな小さな希望を胸に、後で食らわす拳を右手に秘めて、わたしは村長さんの話を聞くことにした。


 村の中を並んで歩きながら、住んでる人達のことや、困っていることがないか尋ねる。メモを取るのは、もちろんアルノーさんだ。


 最初に向かったのは、村で一番大きな井戸がある場所で、側には洗濯場があった。すでに洗濯は終わったのか、誰もいないけれど、辺りの地面はまだ湿っている。


「村には井戸は4基ありますが、洗濯場はここだけです。まぁ、どこも同じでしょうが、冬場の洗濯は本当に大変で。せめて風よけでもあればと」


 期待に満ちた顔を、アルノーさんに向ける村長さん。どうやらアルノーさんが、領主代理・代行だと思っているようだ。まぁ、普通はそう考えるよね。

 ここで訂正しても良いけど、子供相手だと、言っても無駄だと思われるかもしれないから、このままにしておくことにした。

 アルノーさんを見上げると、メモを取りながら頷いてくれたので、同じ意見のようだ。


 だから、ここからは『子供の素朴な質問』戦法で行こう!ふへへっ、可愛い乙女に聞かれて、答えない大人はいないからね!


「やっぱり寒い中、冷たい水で洗濯をするのは、大変ですよね?」


 似顔絵を描いてもらった時に覚えた、秘技『乙女のキラキラ笑顔』を向けながら、聞く。


「そうなんだ。私も時々手伝うんだが、とにかく寒いし水は冷たくて、指がジンジンと痛くなるしで、あれ程大変な仕事は無いと思う。だから出来るだけ汚れ物を出さないように、気をつけているんだが、うちの奥さんは綺麗好きだから、何日も同じ物を着ていると、怒られるんだ……」


 町には、洗濯を仕事にしている人がいるし、家の中に洗濯場がある家も多い。だから、冬場の洗濯の大変さなんて、考えたことが無かったけど、これは確かに問題だと思った。


「村長さんは、どんな風よけが在れば良いと思います?」


「そうだな。2面か3面の壁と、あとは屋根があれば、ありがたいかな」


 それぐらいなら、そんなに手間はかからないだろうから、直ぐに何とかなりそうだ。


 アルノーさんが熱心にメモを取っているおかげか、わたしの笑顔が効いたのか判らないが、村長さんはその後も、色々と話をしてくれた。 


 もうすぐ豆の収穫が始まることや、今年は5匹の子山羊が生まれたから、放牧地を少し広げたいという話を聞いている間に、村の反対側に着いた。

 そこには小さな木が沢山植えられた畑があり、その奥には木の乾燥小屋と、こんもりとした林が見える。畑の横には荷車が2つ、置いてあった。


「ここでは、植樹用の木を育てています」


 言いながら、荷車を指差す。


「あれも、出来ればもう少し大きな物があれば、助かります」


 2台ある荷車は、どちらも古くて小さいため、乾燥小屋から村まで、薪用の木を運ぶのにも、何回も往復しないといけないという。

 それに病人や怪我人を、町のお医者さんや薬師のところまで連れて行くのも、時間がかかるらしい。


「元気な牡山羊に引かせる事もありますが、なかなか言う事を聞きませんで……」


 結局、大人が二人がかりで、引いたり押したりしながら行くと聞いて、確かに大変だと思った。



 でも、一番の問題は、冬場に多いという魔獣の襲撃だった。


「この村は、『魔獣の森』に近いこともあって、野生動物が少なくなる冬場、魔獣が餌を求めてこの辺りまで来ることが度々あって……」


「魔獣の森?」 


 初めて聞く名称に、首を傾げると、


「あそこに見えるベルキープス山脈の森のことです。ダンジョン以外で魔獣が多くいる場所は、一部の草原と、山や森林ですが、その中でもあの森は特に魔獣が多いため、『魔獣の森』と呼ばれています」


 アルノーさんが説明してくれた。ここ数年は、人が襲われたことは無いけれど、毎年家畜が食べられたり、畑が荒らされたりするらしい。


「一応、魔獣除けの石が設置してあるが、どれも古いし、中にはヒビ割れた物もあって、どれ程効果があるのやら……」 


 魔獣除けの魔法陣にもランクがあって、ホーンラビット辺りの小型魔獣用だと使用料は安いけど、大型魔獣用となると、高額になる。もっとも、それは石に直に魔法陣を刻む場合で、専用インクで石に描く簡易版は、格安だ。まぁ、インクはチョットばかり、高いけどね。


 風よけと合わせて、できれば豆の収穫が終わったぐらいから対策を取って行きたい。予算は十分にあると言ってたし、使えるだけ、使ってやろう!


 3人で、のんびりと来た道を戻る。荷馬車を停めた所まで戻った時、逃亡者の声が聞こえた。


「お~い、エミリア!腹が減ったんだけど、弁当はまだ、食べないのかっ…えっ!」


 声の方に向かって一気に加速し、右の拳を繰り出す。しかし、エドガーがすかさず上体を後ろに反らし、かわす。


 ブンッ!(チッ、避けたか)


 拳は空振りしたけど、相手はそのままバランスを崩して、尻もちをついたから、まぁ、いいや。

 驚いた顔で見上げるエドガーの前に立ち、腰に手を当て、見下ろす。


「何が腹減ったよ。わたしはちゃんと、仕事を手伝うように言ったよね。なのに、勝手にどこかに行ったりして、ただで済むと思ってるの?」


 アランさん直伝の、ドスを利かせた声で言う。こういう事は、最初が肝心だ。今ここで簡単に許したら、この先もずっと同じことをするだろう。


「何をしていたのか、言って」


 側にいた男の子達を、にらみつけながら聞く。棒切れを手に、あちこちに草を付けているあたり、どう見ても全員、遊んでたよね。


「村を、案内して……」


「鬼ごっこと、剣士ごっこを少しだけ……」


「でも、エドガーが、大丈夫だって……」


 その言葉に、再びエドガーをにらみつける。アルノーさんに助けを求めても、ダメだからね。


「エドガー坊っちゃん。騎士や兵士の職務放棄は、重罪なんですよ」


 すがるような視線をアルノーさんに向けていたエドガーは、その言葉に、がっくりとうなだれた。


 さて、『働かざる者、空腹に耐えろ』ということで、逃げないようにロープでしばったエドガーを、荷馬車の後ろで走らせながら、次の村へとのんびり向かう。


「あっ、アルノーさん。こっちのパンも、美味しいですよ」


「ありがとうございます。ほぅ、果実水もあるんですか?良いですね」


「たくさんあるので、しっかり食べて下さいね」


「ごめん、悪かった!だから残しといて!」


 大声で謝る声が聞こえるが、その元気があるなら大丈夫。走れ、エドガー。シガル村はすぐソコだ!

お読みいただき、ありがとうございます。

次作の投稿は9月13日午前6時を予定しています。


評価及びブックマーク、ありがとうございます。

感謝しかありません。

また、<いいね>での応援、ありがとうございます!何よりの励みとなります。


誤字報告、ありがとうございます。

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