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がんばれ、ガイドたち! いち

 わたしとマキシムは、エドガーとアルノーさんが戻ってくるまでに、食堂『鉄の台所』の二階にあるパシェット商会の事務所で、着替えることにした。

 これから砦跡に泊るのに、余計な荷物を増やしたく無いから、変装用の服と賞品のカードが入ったデカく目立つ額は、事務所に置いていく。

 階段を下りながら、


「楽しみだね、お泊り会。今日の夜は観測機器を使って、月と星を観るんでしょ。へへ、わたし観測機器で星観るの、初めてなんだ! 」


「僕も! そうだ、観測機器の使い方も、ちゃんと調べてきたよ! 」


「ホント? 助かる! 」


 昨日、レノーさんから使い方の説明を受けたけど、結構複雑で、ちょっと不安だったのよね。

 待ち合わせは事務所前だけど、わかりやすいように、食堂の前で二人を待つ。


「あっ、来た! 」


 ガラガラという音がをたてながら、パシェット商会の馬車が近づいてくるのが見える。その屋根にはわたし達の鞄と、星の観測機器が積まれていた。


「お待たせ! 」


 馬車から飛び降りてきたエドガーは、さっきと同じ、礼装のまんまだ。きっと屋敷に着くとすぐに馬車を乗り換えて、こちらに来たんだろう。ワンピース姿のわたしを見て、


「あっ、もう着替えてる! ちょっと待っていて、すぐに着替えてくるから! 」


 馬車に乗ろうとしているわたしたちにエドガーはそう言うと、鞄を手に、食堂横の階段を駆け上がっていった。そして。


 ガッチャン、バッタン、ゴットン、バン! 


 騒がしい音を立てているなと思っている間に、今度は階段を駆け下りてきた。

 その格好ときたら、髪はクシャクシャだし、シャツのボタンはかけ違えているうえに、裾の半分はズボンに収まっていない。おまけに持っている鞄は半分開いていて、そこからはみ出た礼服の袖がプランと垂れ下がっている。


「そんなに急がなくても、置いて行ったりしないのに」


 せめてボタンは、ちゃんととめて欲しい……。


「だって、早く行きたいからさ! それに礼服は苦手だから、さっさと脱ぎたくて」


 言いながら馬車に乗ってくると、鞄を隅に追いやりだらしなく座った。


「エドガー、ボタン。それと裾」


「あっ、やべっ。実はさぁ、帰りの馬車の中でずーと我慢してたから、ホッとしてさ」


 ボタンをとめ直しながら、エドガーがぼやき出した。


「だって、王子にエミィのことを教えて、『俺の従妹はすごいだろう! 』って自慢しようと思ってたのに、王子ときたら、ため息ばっかついてるし、ロランなんて、泣きそうな顔でずっと俯いててさ」


 あんな事があった後だから、それは仕方ないんだと思うけど、黙っておく。そして、エドガー、あんたアレほど怒っていたのに、そのすぐ後に、わたしの自慢をしようと思ってたのか……。


「おかげで、ずっと黙ってるしかなくてさ。ホント、大変だった」


「じゃあ王子たちは、今もわたしが男の子だと思ってるってこと? 」


「うん」


 それって、最初の目的からはちょっとズレてる気がするけど、まぁ、いいや。

 せっかくこれから楽しいことが待ってるんだから、余計なことは考えない!


 ***


「エミリアさん。ついでですから、ガイド達の様子を見に行かれてはどうでしょう? 」


 馬車が冒険者ギルドの側まで来た時に、アルノーさんが提案してきた。

 明日のダンジョンツアーの為に王子が選んだガイドは、『花パッチのジャック』を筆頭に『剛力ボブ』、『向う傷のレノ』、『かっとびアンリ』、そして『風使いのロイク』の5人だ。その5人はちょうど明日の打ち合わせの為に、控え室に集まっているはずだ。


「うーん、確かに。ちょっと見に行った方が良いかも。ねぇ、寄り道しても良い? 」


 エドガーとマキシムに確認を取ると、二人とも頷いたので、アルノーさんに伝えて、控え室に寄ることにした。


 冒険者ギルドの横に建つ遊戯場の横にある専用場所に馬車を駐めると、裏側にまわる。

 わざと目立たない色の塗られた扉を開けるて、その先にあるガイド達の控え室に向かう。だけど、どうもいつもと様子が違う。


「なんか、静かだな」


「そうだね。いつもなら、大きな声で話しているのが聞こえてくるのに……」


 エドガーの疑問にわたしも頷く。 控え室の扉を開けたとたん、その理由がわかった。

 ジャック達ガイドは、全員青い顔をして、胃のあたりを撫でたり押さえたりしていたからだ。


(うわぁ……やっぱり相手が王子さまだと、こうなっちゃうんだ)


 普段から貴族の坊っちゃん嬢ちゃんの相手をしているから、大丈夫かも?なんて思っていたけど、甘かったわ。後で胃薬を差し入れを手配しておこう。


「みなさん、明日の準備は大丈夫ですか? 」


 わたしの質問に、全員が黙ったまま頷く。ジャックなんて、花パッチが外れるんじゃないかってくらい、ウンウンと頭を振ってるから、よけいに心配だ。そこに、後ろから声がかけられた。

 

「なんだ、商会頭も来てたのか」


 振り返ると、騎士団長さんが紙の束を持って立っていた。


「じつは、護衛騎士の隊長から、これを預かってきたんだ」


 言いながらジャック達に、その紙を配っていく。それを見たガイド達が、揃ってホッとした顔になったけど、アレっていったい何が書いてあるんだろう? 

お読みいただき、ありがとうございます。

次作の投稿は11月19日午前10時を予定しています。


評価及びブックマーク、ありがとうございます。

感謝しかありません。

また、<いいね>での応援、ありがとうございます!何よりの励みとなります。


誤字報告、ありがとうございます。

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