木工遊具で対決だ! にぃ
思うところがあり書き直していたため、この時間になってしまいました。スイマセン……
「エドガー、あれを勝ちだなんて認めないよな?」
「そうだ。あんなズル、失格だ!」
見張り台の上からは、ロランと王子がエドガーに向かって、反則だ、ズルだと叫んでいる様子がよく見えた。
もちろんエドガーが、そんな言葉を聞くはずがない。それどころかニコニコ笑いながら、
「殿下、急がないとこのままだと最下位ですよー!」
なんてことを言いながら、見張り台を指さしている。
あたりまえだけど、2人が止まっている間も他の参加者達はドンドン先に進んでいて、その先頭にいるのがマキシムだ。
むづかしい『綱登り』もするすると登り、あっという間に見張り台に上がってきた。
「到着!」
「おつかれー」
パンッ!
あげた手をマキシムの手と打ち鳴らすと、並んで見張り台の柵に寄りかかる。
「王子たちは?」
「ほら、あそこ」
指差した先では、護衛騎士が3人がかりで押さえ込むことで揺れなくなった『吊り橋』を、無事に渡った王子とロランが、『縄ばしご』に取り掛かっていた。こちらも護衛騎士が押さえている。
「あの2人、偉そうな事を言っていたわりには、たいしたことなかったね」
「うん。木工遊具で遊ぶのは初めてだろうから、それほど早くないだろうとは思っていたけど、ここまで出来ないとは想像してなかったよ」
言いながら、マキシムはクスクス笑うけれど、ホントにそのとおりだ。 アレほど偉そうに自分たちが勝つ話をしていたのに、その結果がコレだもの。
「だけど、さっきのは僕もびっくりしたよ。まさかユラリンコから、飛ぶとは思わなかったから」
「やった、王子さまに勝った!」
「へへ、オレも!」
「あっ、飛んでた子だ!ねえ、さっきのやり方、教えて!」
(えっ、そんなに寄ってきたら、わたしがエミリアだってバレちゃう!)
他の参加者が次々と見張り台に上がって来て、囲まれそうになったので、急いでスベリ板を使って降りることにした。
競技の結果は、ロランが最下位、王子がその一つ前となった。
そして賞品の贈呈式。王子とロランが睨みつけてくるの中、エドガーの前に進み出る。
「どんなルートだろうが、一番先に着いた者が勝ちというルールなので、ユラリンコから飛んでも問題ない。したがって、この者を勝者とする!」
アルノーさんがわたしの左手を上げて、宣言すると、
「それでは優勝者に、このカード3枚を与える」
エドガーがカードの入った額を渡してくれる。それを受け取ると、見物している人たちによく見えるよう、高々と掲げてみせた。
王子に気を使ってか、パラパラとしか聞こえない拍手と一緒に、
「おい小僧、それを売ってくれ!」
「いや、俺が買ってやるぞ!」
野太い声が、幾つも飛んでくる。そこに、
「おい、お前。それを殿下に献上しろ」
そっとわたしに寄ってきたロランが小声で命じてくるけど、聞こえないふりをして額をみんなに見せていると、
「おい、聞いているのか!」
わたしの肩を掴んで振り向かせようとしてきたから、その手を振り払う。
「なんで献上しなきゃいけないんだ?欲しかったら買えばいいじゃないか。王子さまなんだから、お金は沢山あるだろ。だいいち、これはオレが勝ち取ったものだから、どうするかはオレが決める」
(負けたのによこせって、どれだけあつかましいのよ!)
「コレだから、下賤の者は嫌なんだ。卑しいうえに、礼儀もなってなければ、空気も読めない」
言うことを聞かないわたしに、呆れた顔でロランが続ける。
「ここは、こんな辺ぴな場所にわざわざ足を運んださでくださった王子に、花を持たすべきところなんだよ」
徐々に大きくなっていく声に、辺りはいっせいに静かになった。
あー、ロラン。あんた今の発言で、ここの住民全員を敵に回したかもよ?
「辺ぴで悪かったな!」
そこて声をあげたのは、エドガーだった。
「確かにここは小さな町だし、辺境伯領は王都からは遠く離れている。だけど、国の防衛の要なんだ。お前らが王都で呑気に生活できるのも、ここの騎士たちだけでなく、住んでいるもの皆が国を守っているからだ。それを、バカにするな!」
よく言った!エドガーの発言に、拍手がわく。
そう。ここで生活していて判ったんだけど、辺境伯領の人たちはみんな、毎日必ず山の方を見るのだ。それも、何回も。
昨日と変わったところはないか、何かおかしなところはないか。何気なく毎日見ているからこそ、気づく事があるのだと祖父さまが教えてくれた。
そうやって国を守ってきたのだと、そして、そのことを誇りに思っているのだと。
それなのに王都から来たぽい貴族の坊っちゃんが、辺ぴだとか、住民を下賤だとか言ったら当たり前だけど、反感を買うよね。
さて、どうするんだろうと見ていたら、王子が一歩、前にでた。そして。
「我が友人の発言に関しては、私が代わりに謝罪しよう。エドガー、すまなかった」
エドガーが頷くのを見て、王子が続ける。
「私も王家も、この地を治める辺境伯とその領民には、常に感謝していることを知っていて欲しい。今回の友人の発言は確かに間違ったもので、不快に思った者も多いと思う。そのため彼にはこの地のことを、しっかり学ばせると約束しよう。そうすれば、間違った考えも必ず改まるだろう」
両手を広げて語る王子のお陰で、さっきまでの嫌な空気はなくなり、その場は収まった。
うなだれるロランを連れてその場を後にする王子を見ながら、我儘王子だけど、やるべきことは、ちゃんとできるんだと思った。
もっとも最後の方は、「ロランに辺境伯領について勉強させるから、今日のところは勘弁な」って聞こえたけどね。
ところでわたし、女の子だってバラす事が出来てないんだけど……まぁ、いいか。
ちなみに、この後ユラリンコから飛ぼうとする者が多数でたため、危険だということで、その日のうちに『ユラリンコから飛ぶのは禁止』という新しいルールができあがった。
ありゃ?




