木工遊具で対決だ! いち
母さまからの提案は、木工遊具を使った競争をして、王子たちに圧倒的な勝利をするというものだった。
「行うのは、『駆け上がり』がいいわね。結果がわかりやすいもの」
『駆け上がり』は遊具の端からスタートして、真ん中にある見張り台に一番先に着いた人が勝ちという競技だ。
「でも、どうやって競争に持ち込むんだ?あいつらが、素直に話にのるとは思えないけど」
首をかしげるエドガーに、
「あら、そんなの簡単よエドガー。あなたが交換専用カードを賞品とした『駆け上がり大会』を、開くのよ。それも7歳以下限定のね。もちろん王子たちが参加するのは、自由よ」
「確かにそれなら、カードが欲しい王子たちは参加するかも」
「しかも7歳以下なら、ダンジョンツアーの参加者や大人は出られないから、王子からみれば自分たちに有利な大会だと思うだろうし」
母さまの案に、わたしとマキシムが頷く。
だけど勝つのはわたしだ。くふふふ、見てなさい、王子とロラン!わたしがコブシを握って決意を固めていると、
「だけど、なんで俺が開くんだよ」
どうせなら参加者の方が良いとぼやくエドガーに、
「王子たちと顔見知りなんだろ?だったら、参加者役は無理だよ。王子たちだって、エドガー相手だと勝てないと思うだろうし」
そんなことも分からないのかとマキシムに言われ、エドガーはさらに嫌そうな顔になる。そして。
「俺が開くんだから、賞品のカード、やっぱり俺のを出さないとダメだよな……」
しょぼくれながら、つぶやいた。
(えっ、気にする所、そこなの?!)
思ったけど、口には出さない。代わりに、
「なんだ。そんなことを心配してたの?大丈夫。わたしが持っている分から出すから」
「ほんとか?良かった!」
とたんにニコニコしだしたので、どうやら本気でカードを出さないといけないと思っていたみたい。わたしが勝ったら、賞品は戻って来るのに。
「あっ、あとエミィは村の男の子に見えるように、変装してね」
「ふぇ、なんで?わざわざそんなことをしなくても、年下の、それも女の子に負けたら、それだけで十分落ち込むと思うんだけど。すブルッペを履けば、問題なく動けるし…」
「あら、ダメよ。だって最初から女の子だと判っていたら、負けた時に『女だから手加減してやった』とか、『女相手に、本気なんか出せないからな』なんて言う馬鹿男は、山程いるのよ」
にっこり笑いながら言うけど、母さまの目が笑っていない。たぶん昔、母さま相手に言ったおバカさんがいたんだろうな。その人がどうなったかは……考えるの、やめておこう。
「だから男の子だと思わせておいて、徹底的にやっつけるの。女の子だってバラすのは、その後よ。それに平民相手だと、向こうが勝手に侮ってくれるから、さらにやりやすくなるわよ」
コロコロと笑いながら母さまは言うけれど、ちょっと大人気ない気もするなぁ、なんて思っていたら、その後すぐにお使いリストを渡された。
書かれているのは『黄色い小鳥亭』のパンで、しかもかなりの数だ。
「明後日帰ってくる時、絶対に忘れずに買ってきてね!」
念押しされて、納得した。
ここ最近、ほぼ毎日のように『黄色い小鳥亭』のパンを食べている母さまにしてみれば、王子避けとしてわたしが砦跡に泊まっている間、新しいパンが手に入らなくなる。
この提案は、その腹いせなのかもしれない。妊婦の食欲、恐るべし……。
***
木工遊具の周りは、大騒ぎになっていた。
ただでさえ王子さまが来るということで、多くの見物人が来ていたところに、アルノーさんを連れたエドガーが交換専用カード3枚を賞品とした、『7歳以下の子供限定・駆け上がり大会』をすると言ったからだ。
すぐに参加希望者が集められたけど、予想どおり、十人ほどしかいない。
もちろんその中には、わたしとマキシムも混ざっていて、どちらも古着屋で買った服を着て、帽子をかぶっている。わたしは髪を、マキシムは顔を隠すためだ。
「どこを通るかは、決まっていないので、それぞれ好きに決めてくれれば良い。見張り台に一番先に着いた者が優勝だ」
アルノーさんが競技の説明している横で、列の先頭に立っている王子やロランは、すでに勝ったような顔をしながら何か話している。
(なに話してるんだろ?)
ちょっと気になったから、耳に身体強化をかけて聞き耳をたててみる。
「殿下。どちらが勝っても、恨みっこなしですからね」
「ふん。俺は普段から剣術で鍛えているからな。ロランこそ、途中でバテたりするなよ」
ふぅん。思った通り、勝つのは自分たちのどちらかだと思ってるわけだ。
「ねえ、マキシムなら、どこを通る?」
「僕は最短かな、でも、エミィは好きにしていいよ」
見張り台に行くまでには、一番近い道筋だと『一本丸太』を走り抜け、『吊り橋』を渡り、『縄ばしご』をよじ登り『浮き島』を移動して、最後に『綱登り』をしたら到着だ。
特に最後の『綱登り』は難しく、たいていは少し離れた『ぶら下がり梯子』を通って、『スベリ板』を登る道を行く。
もちろんその他にも、いろいろある。たとえば、ユラリンコとかね。
「はじめ!」
エドガーの合図で、参加者たちはいっせいに『一本丸太』に向かって走り出す。わたし以外は。
混み合う『一本丸太』を横目に、わたしはすぐそばの『ガタガタ橋』を渡ると、その先にあるユラリンコのロープを掴んだ。
(くふふん。王子とロラン、見て驚くがいい!)
両手で握ったロープを後ろいっぱいまで引っぱると、板に片足をかけて、反対の足で思いっきり地面を蹴る。
そこからは素早く板の上に立って、もっと大きく振れるように足を曲げ伸ばしする。1、2、3回目で手を離し、
「とりゃぁ!」
揺れに合わせて大きく飛び出す。ちょっとだけ使った風魔法の風にのると、他の参加者たちの頭の上を走るようにして通り過ぎ、『綱登り』の綱へと飛びついた。
(よし、大成功!)
『吊り橋』を渡りきったマキシムが、『縄ばしご』をよじ登っているのを見ながら、そのまま一気に綱を登っていく。
「いっちばーん!」
見張り台の上に立ち、大声で叫ぶ。もちろん人差し指を上に突き上げて、ポーズを決めるのも忘れない。
「あ、あんなのズルだ!」
まだ『一本梯子』を半分も進んでいないロランと、吊り橋で動けなくなっている王子が叫んでるけど、なに言ってるの。勝ちは勝ちだよーん!
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次作の投稿は10月15日午前6時を予定しています。
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