王子さまが来るぞ! さん
ガラガラという音がして、大きく開けられた門の間を豪華な馬車が入ってきた。その後ろには、こちらも負けないくらい装飾がほどこされた一台が続く。
「ねぇ、アレよね」
「そうだな。なら、後ろの馬車は、例のお友達のか」
「だろうね。あれだけ派手なところをみると、公爵家辺りかな」
わたしとエドガー、マキシムの3人は玄関広間横にある図書室の窓を少しだけ開けて、表の様子をうかがっていた。
「あっ、ロランだ」
2台目の馬車から降りてきた、亜麻色の髪の少年を見て、エドガーがいう。
「知ってるの?」
「知ってるもなにも、ベルガルド公爵家の長男だよ。でも友だちじゃあ、ないからな。アイツ、いっつも俺のことをバカにしてくるんだ。父親が宰相だからって、自分も賢いつもりでさ。騎士団のことなんて、身体を使うしか能のない集団とか言うんだぜ」
あー、それは確かに、友達にはなれそうにないわ。エドガーは父親で騎士団長のクロード伯父さまを、すごく尊敬してるし自慢に思っているからね。
ロランは前の馬車の扉に向かうと、馬車の後ろにいた従僕が置いた踏み台の横に立った。
馬車からは、バン!ガン!ゴン!と、中から扉を蹴っているような音が聞こえてくる。
「どうやら王子さまは、機嫌が悪いみたいね」
「俺たち、今日から砦跡に泊まることにして、正解だったな」
「そうだね。僕も、あんなヤツらの相手なんて、したくないし」
馬車の扉から現れた銀髪の少年は、従僕の差し出した手を振り払うと、代わりにロランの手を借りて、馬車から降りた。その歩き方からして、腹を立てているのが判る。
(あれがアドリアン殿下か。ずいぶんロランのことを、信頼してるみたいだけど……)
見つからないよう窓から離れると、今度は玄関広間側の扉へと向かう。
この後、王子たちはしばらく休憩した後、木工遊具と遊戯室訪問が予定されている。ダンジョンツアーは、明日の朝からとなっている。
だから王子たちが図書室と反対側にある応接室に通されるのを待って、こっそりと屋敷を抜け出し、ハウレット商会の馬車で砦跡に向かう予定にしている。
荷物はすでにアルノーさんが積み込んでくれているし、すぐに出発できるように、隣の衛兵詰所前に停めてある。
だから王子たちには、さっさと応接室に入ってほしいのに、なぜか玄関で大騒ぎしていた。
気になるから、扉を少しだけ開けると、王子の声がはっきり聞こえる。
「だったら今すぐ、そいつらをここに呼べばいいだろう!」
「お断わります!」
負けじと、祖父さまの声が響く。
「僕の命令が、聞けないというのか?」
「ええ、聞けませんな。そもそも殿下は私に命令する権限を、まだお持ちではない。そして令息。あなたの小賢しい入れ知恵でのおかげで、多くの者が迷惑を被ったうえに、殿下の評判をおとし、品位を貶めた。今後はこのようなことは、止めたほうがよろしいかと」
「僕は、そんなつもりは…、」
おぉ、王子とロランにビシッと言ってる祖父さま、カッコいい!だけど、いったいなんのことで揉めてるんだろう?なんて思っていたら、
「引き換え限定のカードが欲しいって騒いでたのよ」
(ひっ…)
背後から母さまに声をかけられ、思わず叫びそうになったわ。
「母さま、どこから……」
扉をそっと閉めて、声をひそませ聞くと、母さまは黙って奥の方を指さす。あっ、そういえば、あっちにも扉があったわ。いや、それよりも今、なんて言った?
「だから、殿下とそのご友人が、引き換え限定のカードが欲しいって騒いでたのよ」
「はぁ?」
母さまの言葉を聞いたわたしたちは、大きく開いた口が当分閉まりそうにない。
どうやら王子たちは、冒険亭に泊まれなかった代わりとして、引き換え専用カードをよこせと駄々をこねていたらしい。そして、カードの販売元であるパシェット商会を呼べとまで言い出したわけだ。
しかも祖父さまの言い方からすると、今回の騒動のそもそもの原因は、ロランの入れ知恵みたいだし。
「なんかすっごく腹が立ってきた。母さま、あの2人、一発殴ってきても?」
拳を握って、聞いてみる。
「王子も令息も、冗談でも殴っちゃダメよ。さすがに暴行罪で捕まるから」
いや、結構本気なんだけど、やっぱりダメか。でも、なんとかして、あの2人に思いしらせてやりたい!
「だったら、こうするのはどう?」
母さまの提案に、わたしたちはニンマリとした。
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少し行事ごとが重なるため、来週の投稿は休みます。
そのため次作の投稿は10月1日午前6時を予定しています。
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