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トイレを作ろう よん

 おまけに、遊んで(寝て)いる間に、すごく良いことを思いついたはずなのに、ちっとも覚えていない。なんで?




「よぉ、嬢ちゃん早いな。どうした、難しい顔して。腹でも痛いのか?」


 技術部で腕を組み、どうにかして思い出そうとしてたら、失礼なおじさんが入ってきた。


「ちがうよ、ギレス。寝ないで色々考えたのに、起きたら、全部忘れてたの。だから、なんとかそれを思い出そうとしてるとこ」


「……それはまた、器用なことで」


 頭を掻きながらノートとペンを用意して、わたしの前に座る。


「さて。寝言はともかく、『乙女の願望』を書き出していくから、教えてくれ」


「ん〜。わかった」


 しかたがない。思い出すのは、諦めよう。


「じゃあ、まず、『馬車に付けれるトイレ』からな。高さ」


「馬車と同じくらい」


「幅は?」


「普通のトイレ位欲しい」


「奥行きは」


「『トイレの付いた馬車』の半分以下!」


 こんな感じで、質問に答えていく。だんだん細かいことを聞かれてめんどくさくなるけど、ここで手を抜くと、出来上がりに響くので、ちゃんと答える。


 キリアンやアドルにも、山ほど質問された。便座の高さや、鍵の形などの細かい事から、収納袋の色まで、次から次へと答えているうちに、頭の中で少しずつ、完成した形が浮かんでくる。


(あっ、そうそう、こんな感じ。ふへへっ)


 浮かんだままを、何枚もの紙に描いていく。


「さて。取り敢えずは、こんなもんかな」


 ノートを閉じたギレスは、わたしの絵とノートを持って、デザイン部へと向かった。キリアンは設計図に取り掛かり、アドルは何やら計算を始める。暇になったわたしは、師匠から特別に、魔法陣の仕組みについて教わることにした。



 それから2日後、馬車の装具デザイナーさんによって描かれた完成予想図が届いた。頭で思い描いていた物が、そこにあった。


「そうそう、これー!思ってた、まんま〜」


 絵を持って、片足でくるくる回る。これこそ、乙女の乗り物よ!やったね、みんな。後は、これを作るだけだぁ!


 まぁ本当は、ここからが大変なんだけど。実際に作って動かして、問題無いか確認してと、する事が沢山あるからね。でも、商品として出す予定の物だから、簡単に壊れたり、動かなくなった、なんてことが無いように作るのは、当然の話!見た目だけじゃないのよ、うちの商品は!

 

 そうして少しずつ、出来上がっていったんだけど、もう一つ、する事があった。


 『仕様の詳細な記述』だ。これは特許を申請したり、商品として登録するためには、絶対必要な物らしい。うちの文書部に出す決まりなんだけど、間違いがあったり、書き忘れがあると、直ぐに【再提出】と書かれて戻ってくる。靴の時にも、何回も戻ってきては、縫製部のおばちゃんを叫ばせていた。


 今回も、3つの特許の申請と、いくつかの使用申請書を出さないといけないらしいので、面倒くさいから、父さまにゴネて文書部から一人、派遣してもらうことにした。

 来たのは、文書部副主任のライドさん。父さまがとても優秀な後輩だと、おすすめしてくれた人だ。だけど。


「はぁ~。また、あなたですか。エミィお嬢さん」


 初めて会ったおじさんに、ため息付きで、またと言われてしまった。理由が判らず首をかしげると、アドルが横でゲラゲラ笑いだした。


「お嬢さん。この人、あれ!ほら、再提出の」


 その言葉で、思い当たった。縫製部のおばちゃん達を叫ばせていた張本人、


「再提(最低)魔人だ!」


「そのあだ名で、呼ばないでもらえますか。私は仕事をしただけです!そもそも、あなた絡みの仕様書ときたら、追記だらけの提出できない物ばかりで……」


 なにか言ってるけど、うるさいだけだから、耳をふさぐ。おじさんの仕事のグチなんて、乙女の耳には必要ない。

 ふへへ。でも良かったね。自分で書けば【再提出】には、ならないよ!



 そして三か月ほどで『馬車に付けれるトイレ』と『組み立てトイレ』の()()()が仕上がった。視察旅行のついでに、試験使用をすることになったから、これで野宿も問題無い!


 3つの特許申請の書類は、全部ライドさんが叫びながらも書き終わり、国が持っている2つの特許使用申請書と一緒に出されたし、父さまはさっそく、いろんなところに宣伝しているらしい。いくつか、注文が入ったって。ふへへっ。


 出来上がった『馬車に付けれるトイレ』は、今までの物に比べれば、幅は同じだが厚みは三分の一程度。これは扉部分を開けた後、壁として利用する事で、出来た。いろんな処理は、国が持ってるボロバッグ(馬のお尻に着ける馬糞処理バッグ)の特許技術を、そのまま使うことで解決。

 トイレの両サイドには、馬車の形に添わせたカバーがつけられ、中に小物が収納できる。このカバーは国内に出回っている、一般的な4種の馬車すべてに対応できるようにして、色も3色用意した。それ以外の色は、特注になる。


『組み立てトイレ』は、『組み立て式トイレ』に名前を変更し、掘った穴の上に設置することで、いろんなムダを省いた。その代わり、ヘンチョは水に戻した物を使用することになったけど、それは、しかたがない。


 蛇腹に折られた壁板は、上部を引き出すと背が高くなる。それを、穴が空いた底板、そして折りたためる椅子型の、『伸びる筒式便器』を組み合わせて使用する。固定用の杭とロープは、当然、ついている。


 こちらは少々手間はかかるけど、とにかく小さくまとめられるというのがポイントで、全部が1つの専用袋に収納できる。ただし屋根部分がないのが、今後の課題だ。

 

 また、大人数や、長期間使用する場合の穴の深さや、ヘンチョの量等は、袋に型染めした。特に、『ヘンチョは必ず、水で戻した後で入れる』と、『最後に、穴は必ず埋める』という注意書きは、赤で目立たせてある。




 出来上がったトイレを、わたしは鼻高々で母さまに説明し、ついに視察旅行の出発となった。

 一番大きな馬車に取り付けられたトイレは、目立つことなく、周りの反応も『ちょっと変わった形の馬車』だったから、大成功だと浮かれた。休憩の度にトイレを使うほどには、浮かれていた。


 そして、最初の野宿の日。その日は『組み立て式トイレ』を初めて使う日だった。父さまと護衛のアランさんがトイレを組み立ててくれる。その横で、野宿に対して()()()()()()()()()だったわたしは、馬車やアランさんの準備している焚火などを囲うように、魔力を使って囲いを作ることにした。

 大体幅15センチ、高さは父さまよりもちょっと高いぐらいを目安として、茨の囲いを作ったのだ。それを見たアランさんが、首を傾げる。


「お嬢さん。それで、トイレも作れるのでは?」


「………………」


 確かにな!これで、出来るわ!いや、馬車につける分はともかく、組み立て式、無くても良かったわ!あんなに時間がかかったのに……みんなの時間も、たらふく使ったのに。ごめんよ、みんな……


 へこむ自分に追い打ちをかけるように、トイレを作ってみる。


 出来たわ。

 簡単に。


 便座部分も、土魔法で問題なくできましたとも。何なら座り心地を考えて、柔らかい葉っぱを座面に生やしましたわ。穴?当然、掘ったよ。


 父さま、何笑ってるんです?娘は泣きそうなのに…… 


 母さま、緑のトイレにお花を飾らないで下さい。あんなに時間をかけて、さんざん自慢したトイレより、魔法で三分で作ったトイレの方が可愛いなんて、言わないで下さい。本気で泣きたくなります……


 アランさん、なに笑いながら緑のトイレに、戻したヘンチョを入れてるんです?あんた、使う気満々だな!


 その後、父さまが笑いをこらえながらも、『組み立て式トイレ』は、騎士団や軍部からの他、建築ギルドからの注文も入ったことを教えてくれ、慰めてくれた。


ベルティカ王国では、馬車を引く馬には、馬糞対策のボロバッグが義務とされている設定です。これも、ヘンチョを入れて使います。


そのため、街中・街道共に、馬糞が落ちていることは、ありません。

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