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王子さまが来るぞ! にぃ

 ワタリさんの話は続く。


「それだけではなく、ご友人が同行されているらしく、一緒に泊まりたいと……」


(へっ?『ご友人』が一緒だなんて、聞いてないし!というか、いつ、誰が、どこで増えたのよ!)


 しかも祖父さまのお屋敷に泊まるのならまだしも、『冒険亭』に泊めろだなんて!我儘放題もここまでくると、心優しい乙女なわたしでも、殺意が湧くわ。


「エミリアさん。私はあの部屋を何ヶ月も前から予約し、楽しみにされているお客様に対して、いくら王子様が来るからといって、お断りするようなまねは、したくありません。しかし……」


 話しながらも、ワタリさんの視線は庶民(わたし)ではなく、貴族(エドガー)たちに向いていた。

 うん、判るよ。

 予約客を大事にしたいけれど、そうすると、今度は王子の要望を断ることになる。

 庶民がそんなことをしたら、どんなお咎めがあるか判らないから、できれば祖父さまだけでなく、エドガーやマキシムにも、味方について欲しいんだろう。


「なぁ、すぐにお祖父さまに相談しに行こうぜ!」


「そうだね。急いだ方が良いと思う」


 マキシムも、わたしを見て頷く。

 確かにそうだ。ここでいくらわたしたちが悩んでいても、解決なんて絶対にない。

 だったら、どうするか?もちろん、解決できる人に頼るのよ!まぁ、丸投げともいうけど。



 忙しい中を抜けてきため、いったん冒険亭に戻るというワタリさんから手紙を預かり、わたしたちだけでお屋敷に戻ることにした。


(だけど、なんか引っ掛かるのよね……)


 今回いろいろと手配していて学んだんだけど、そもそもこの町には、上位貴族や王族を泊めるような宿屋はない。

 もちろん『冒険亭』は、他の宿屋に比べたら高級宿屋なんだけど、受け付けまでなら、誰でも入れる。誰でも入れる宿屋は、個人のお屋敷に比べたら、安全性は格段に低くなる。

 だから王子さま一行の移動中の宿泊先として選ばれたのは、街道沿いにある領主館や貴族の邸宅だ。

 そこで、はたと気付いた。


(あれ?コレってもしかして、王子がかってに手紙をよこしたんじゃぁ……)


 預かった手紙を広げてみると、そこに書かれている字は、子供が書いた一生懸命大人が書いたようにみせようとしているけど、子供の字だった。



 **



 バンッ!


「祖父さま、問題発生です!」


 祖父さまの執務室の扉を開けながら、声をあげる。

 わたしはワタリさんから聞いた話を祖父さまに伝え、ついでに手紙を見せながら、さっき思いついたことも加えた。


 祖父さまは、手紙を見ながら少し考えたあと、


「エミリアの予測どおり、これは殿下の独断だろう。おそらく侍従や護衛たちさえ、知らぬはずだ」


 そういうと、王子訪問のために派遣されていた辺境伯領の騎士隊の隊長を呼んで、今回の手紙について早急に確認を取るよう指示を出す。

 同時に王子到着に合わせて、冒険亭の前にも三人ほど騎士を配置することを約束してくれた。これは万が一、王子一行が宿に来たときに対応するためだ。

 これで、ワタリさん安心してくれたらいいけど。


 **


「なぁ、今回のことって、もしかしてダニーが原因かな?」


 レノさんが用意してくれたお茶を飲みながら、丸投げの成功にほっとしていると、エドガーが聞いてきた。


「かもねー。ホーンウルフに乗った絵とか、わざわざ持ち歩いて自慢しそうだし」


 だからといって、今回の行動が許せるわけではないけど、アレに自慢されたら、対抗意識が生まれるのはちょっと判る。


「冒険亭に泊まるのはダメだけど、似顔絵くらいなら良いかも」


「確かに。ホーンウルフに乗るなんて、普通はできないし、それくらいなら許可が下りるんじゃないかな?」


 焼き菓子を手に、マキシムが同意する。



 結果はすぐに判った。

 思った通り、冒険亭に泊まるという手紙は、王子の独断だと判明した。

 護衛隊の隊長も知らなかったらしく、騎士さんから話を聞いて、頭を抱えていたらしい。

 そして王子さまは、侍従頭に叱られたそうだ。


 ちなみに、お友達が増えたのは本当だった。これに関しては、護衛隊の隊長と侍従頭の2人とも、同行者が1人増えただけなので、到着時に報告すれば良いと思っていたらしい。


 カンベンしてくれ……

お読みいただき、ありがとうございます。

次作の投稿は9月23日午前6時を予定しています。


評価及びブックマーク、ありがとうございます。

感謝しかありません。

また、<いいね>での応援、ありがとうございます!何よりの励みとなります。


誤字報告、ありがとうございます。

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