王子さまが来るぞ! いち
それは皆で楽しく夕飯を食べている時に、祖父さまが発言したことから始まった。
「今日、国王陛下から第一王子をダンジョンツアーに参加させるようにとの命令書が届けられた」
「ふへぇ?」
おっといけない。あまりに驚きすぎて、乙女にあるまじき声が出たわ。おまけに食べてる途中のパンが、口からこぼれ落ちそうになって、あわてて口をおさえる。あぶない、あぶない。
でもチョット待って。驚いてるのって、もしかして、わたしだけ?母さまもエドガーも、ちょっと手が止まったくらいで、普通に食べ続けているし。
「よくある事なのよ。流行りの舞台や、話題になっている新商品では特にね。とにかく流行に遅れをとるのが、嫌みたいね」
わたしの視線に気づいた母さまが説明してくれるけど、だったら一番最初に申し込めは良いだけじゃない!
ん?!エドガーったら、なにコクコクと頷いてるのよ。あっ、もしかして声に出てた?
「今、殿下は『神王さまの冒険』に夢中らしいから、それもあるのだろう」
祖父さまの言葉に、ツアー開始直後にゴタゴタを起こした公爵のお孫さまの顔が浮かんだ。もしかしたら、アレがいろんなところで自慢しまくった可能性があるな。
「第一王子ってことは、アドリアンさまか」
「エドガー、知ってるの?」
「子供だけのお茶会なんかで、何度か見かけたくらいで、よくは知らない。歳は俺と同じだけどな」
「じゃあ、ダメじゃん!」
思わず大きな声が出ちゃったけど、仕方ないよね。エドガーと同じ年なら、まだ7歳ってことだもの。
そしてダンジョンツアーの参加は、8歳からだ。なのに王子だからって、年齢制限無視して参加させろってこと?しかも予約もしてないのに。王子さまなんだから、特別待遇はあたり前ってことですか?なんかムカつくうぅ!
「それで、殿下はいつ来られるの?確かツアーは3ヶ月先まで、予約がいっぱいなんでしょう?」
母さまが、どうするのと首をかしげるけど、実際、半年先までほとんど空きはない。そんなことは祖父さまも知っているはずだけど、一応聞いてみる。
「どこに入れろと?」
「殿下が来られるのは、10日後だ。ツアーに関しては、他の参加者に迷惑かからないよう、時間外にせねばなるまい」
あー、その時だけ、1回増やせと。まぁ、それなら他の参加者には迷惑かからないからいいか。だけど、ガイド達には特別手当が必要だ。それに、さすがに王子さま相手に元冒険者のガイドをつけるわけにはいかないから、ここは全員、元騎士のガイドにしたほうが良いかも?
なんて思っていたら、
「それとガイドだが、希望リストが同封されていた」
なんと、ガイドの注文までつけてきたのか! さすが王族。お貴族さまの親玉だけあって、我儘度合いが半端ない!
しかも一番最初に『花パッチのジャク』と書かれている。その後も名前は続き、5人全部が元冒険者のガイドだった。
ごめんよ、みんな。胃薬は差し入れするから、頑張れ!
**
さて。いくら文句を言っても、何も始まらないし、終わらない。ってことで、お仕事開始!
先ずは宿泊先から。なんせ王子さま御一行は三十人以上での大移動で、しかも馬車だけで5台もあるらしい。そんなにたくさんの人を泊める場所なんて、はっきり言ってこの町には無い。
まぁ、王子さまは祖父さまのお屋敷に泊まってもらえばいいんだけどね。けれど、それ以外の人たちを泊めるほど、お屋敷は広くない。
まず宿屋だけど、どこもみな満室だし、なにより3ヶ月先まで予約でいっぱいだ。
次に神殿。実は大きな街の神殿だったら、宿泊用の部屋もあるらしい。だけどこの町の神殿にあるのは、孤児院だけなので、やっぱりムリ。
だから護衛の騎士さん達や、お付きの人たちの大半は、お隣の衛兵詰所の演習場に天幕を張って泊まってもらうことにした。もちろん天幕はコッチが全部準備するんだけどね。
他にも馬の世話をしたり、馬車の点検をする職人の手配をしながら三十人分の食料の調達と、全部が済んだのは王子到着の二日前。
「終わったぁー」
「つかれた……」
「三十人って、あんなに食べるんだ…」
わたしとエドガー、マキシムの3人は、事務所に備え付けてある長椅子に、くたびれた身体をデロンとなげだしていた。
「明後日からの3日間、乗り切れば完了よ……」
王子の滞在期間は、3日間だ。その間、レノさんにお願いして、わたしと母さまの食事は部屋に持ってきてもらうことになっている。庶民は王族と同席したくないし、向こうも嫌だろうからね。
「俺も部屋で食べたい…」
「だったらさぁ、その間だけ3人で、砦跡に泊まらない?」
マキシムの提案を聞いたエドガーが、途端に元気になる。
「いいな!あの部屋できたのに、まだ泊まれてないし」
砦跡にお泊りかぁ。確かに良いかも。夜、遅くなっても、注意してくる大人もいない。
「そうだ。確か星の観測機器、あったよね。持って行って良いか、お祖父さまに聞いてみよう!」
「バトルカード、忘れずに持っていかないと」
「だったら、あらかじめ『黄色い小鳥亭』に、何か夜食に食べれるものを頼んでおくのはどう?」
ふへへっ、次々に出てくる案に、なんだか楽しくなってきた。そこからは、3人で『砦跡お泊まり会』の計画を立てることにした。だって3日もあるんだから、いろいろと楽しめそうだ。
わたしがダミアンたちも誘って、星の観測をしようと話していると、そこに『冒険亭』のワタリさんが、青い顔をして駆け込んてきた。
その手には、ちょっと前に見た覚えがある封筒がギュッと握られている。
(あっ、いやな予感……)
「エミリアさん、いったいどうしたら良いか……ついさっき王子さまから、冒険亭に、それもアースドラゴンの部屋に泊まりたいという手紙が届けられて……」
「はぁ?」
いったい、どんだけ我儘なんだ?
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次作の投稿は9月17日午前6時を予定しています。
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