怪しい女の子 その後
今回、やっとサブタイトル回収……
(女神ドラーラさま、聖獣プルートさま。次からは必ず、大銀貨を寄付することを約束しますから、今すぐこの状況をなんとかして下さい……)
目を瞑って一生懸命にお祈りするけど、世の中、そんなに都合よくいくはずもなく、目を開ければ、周りにはさっきと変わらず白いフワフワとモフモフで溢れていた。そして横向くとエドガーが、前を見れば、お茶の用意をしているノアがいる。
そう、ここは宿屋『冒険亭』にある『ホーンラビットの部屋』で、わたしはこの部屋に、強制的に招待されていた。
そしてこの部屋の宿泊客であるブランシ伯爵令嬢は、部屋の隅にある衝立ての向こうで着替えの真っ最中で、
「ノア、絶対に逃がさないでよ!」
叫ぶ声が少しこもって聞こえるのは、そのせいだ。
「承知しております」
ノアが応えながら、わたしたちにお茶の入ったカップを渡してくるけど、この状態で出された物を飲むのは怖すぎる。何が入っているか、判らないもの。
ちなみに、ブランシ伯爵が親娘でこちらにきていることは確認ずみなので、彼女が偽物の可能性は非常に低い。というか、伯爵自身がこの宿に泊まっているので、確実に本人だろう。
はぁ~。ウォルドのお土産用の揚げ芋を買って帰ろうと、ちょっと寄り道しただけなのに、なんでこんな目に合うんだろう。あのままアルノーさんと一緒に、お屋敷に帰ればよかった……
腰掛けている白モフな長椅子をモシャモシャとなでながら、ため息をついた。
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「なぁ、なんで捕まったままにしてたんだ?」
招待されたわけでもないのに、おもしろがってここまでついてきたエドガーが、コッソリ聞いてくるけど、黙って睨んでおく。
たしかにブランシ嬢に掴まれた程度なら、簡単に振り払えたけど、困ったことに彼女の指が、靴のリボンに引っかかっていたのよね。だからたヘタに振り払らったら、リボンがちぎれるかもと思って出来なかったわけよ。
だからいっそ、手を離させるために、手首を踏んづけてやろうかとも思ったけど、うっかり骨でも砕いたら、後々面倒なことになるのは明らかだ。
(この歳で捕まるのは、イヤだしね。おまけに伯爵令嬢を傷つけたりしたら、いったいどれだけの賠償金が請求されるのか、考えただけでゾッとするわ……)
まぁ逃げるより、靴のリボンの方が大事だなんて話をこの運動小僧にしても、首を傾げられるだけだろうからね。うん、絶対教えてあげない。
もっともエドガーが聞いてくれたおかげで、『テンセイシャ』が生まれ変わりのことだと判ったのは、ありがたかったわ。
あと、わたしがトモヨさんでは無くて、祖母さまの生まれ変わりってことで話が進んでるけど、それは些細なことだしね。
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「あなたが、ご自身のお祖母様の生まれ変わりだと思われてるのは、判ったわ。でも、だったらなんでポケ◯ンカードもどきなんか作ってるのよ?」
ワンピース姿で衝立ての影から出てきたブランシ嬢は、またしても、意味不明な言葉で質問してきた。
(ポケ◯ンカードモドキ?だーかーらー、なんなの、それって……)
だけど彼女が封筒を突き出してきたおかげで、ようやくそれがバトルカードのことだと判った。
そこからは、話が早かった。バトルカードを考えたのが、わたしじゃないことや、わたしが生まれる前からカードがあったことが判った途端、ブランシ嬢の態度が変わったからだ。そして。
「いろいろと、悪かったわ。私ちょっと、というか、かなり勘違いしてたみたい。ごめんなさい」
顔色を青くしながら、頭を下げてきた。
なんか判らないけど、どうやらわたしに対する変な疑惑は晴れたみたい。だからといって、失礼な態度を取られたことを、無かったことにする気はないけどね。
先ずは、残りの不思議言葉について、教えてもらおう。だって後から気になって、モヤモヤしたらイヤだし。ということで、先ずは。
「ねぇ、だったら教えて。テンセイチートってナニ?」
まさかそんなことを聞かれるとは、思っていなかったのだろう。ブランシ嬢はスゴク驚いた顔をすると、なにやらゴニョゴニョと言った後、
「そ、それは、生まれ変わった時に特別に与えられた能力とこ、えっと、前世の記憶を使って、いろんなことを有利にすることで……」
所々つっかえながらも、教えてくれた。
「なぁ。エミィはお祖母さまの時の記憶って、あるのか?」
「全く、ない」
あるわけない。そもそも、前世は祖母さまではないうえに、前世の記憶自体が、ない。
前世であるトモヨさんと話しはするけれど、トモヨさんとして生きていた記憶は、カケラもないからね。
わたしは、わたしとして生きてきた記憶があるだけだ。だからこれは、わたしには全く関係ない言葉なので、次の不思議言葉にいってみよー!
「なら、オトゲーは?それって、」
「なぁ。オトゲーって、なんかカラーゲーみたいで旨そうだよな」
横から挟まれたエドガーの言葉に、思わずうなずく。実はわたしも、そう思っていたのよね。
カラーゲーは最近王都で流行りの鶏肉料理で、お祭りなんかの出店には、長い行列ができている。
わたしも父さまも大好きで、わざわざレシピを購入して、家政婦のエリさんに作ってもらうほど、お気に入りだ。
もし『オトゲー』が美味しいものだったら、今回のお詫びとして、レシピをもらうのも良いかも?ふへへっ……
「ねぇ、どうなの?美味しいの?」
期待した目で、ブランシ嬢を見る。だけど。
「残念だけど、乙ゲーは食べ物じゃないわ」
「食べ物じゃあ、ないんだ……」
「なんだ、ざんねん……」
エドガーと2人、がっくりと肩を落とす。
「ちょっと2人して、露骨にがっかりするの、やめてくれる!だって乙ゲーは…」
ブランシ嬢が、なにか説明しようとしたその時。
バッターン!
突然部屋の扉が開いて、騎士さんたちがドヤドヤと入って来た。先頭には、アルノーさんと隊長さんがいる。
「お二人とも、ご無事ですか?!」
駆け寄ってきたアルノーさんが、わたしとエドガーを上から下まで何度も見ながら、怪我等がないか聞いてくる。
その場の指揮をしていた隊長さんも寄ってきて、今回のことについて、説明してくれた。
どうやら街の人たちから、わたしとエドガーが貴族にからまれて、そのまま連れ去られたと通報があったらしい。
ありゃりゃん。なんか大ごとになってる?あとまだ、『オモキミ』がナニか聞いてないけど、これ以上の質問は無理っぽいかも。
だってブランシ嬢とノア、騎士さん達に拘束されちゃったし。あっ、まさかこのタイミングで、お祈りが効いたってこと?
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今週末から来週にかけて、親族大集合があって忙しいため、来週の更新はお休みいたします。
次作の投稿は8月27日午前6時を予定しています。
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