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トイレを作ろう さん

 わたしは『馬車に付けられるトイレ』への要望を、声に出しながら、書いていった。


 まず、『どんな馬車にでも、付けられる』こと。

 これなら、新しい馬車を買わなくて済むし、使わない時は、外してしまっておけば良い。なにより、うちで一番大きな馬車にトイレが付けば、それで視察に行けるからね。ふへへっ。


 次に、『付けた時に馬車の形から、出来るだけはみ出さない』こと。

 これは大事!見た目が悪い乗り物なんて、乙女は乗らない、乗りたくない!仮にはみ出しても、オシャレなデザインに見えるなら、許す。当たり前だけど、色も合わせる!


 最後に、『使いやすい』こと。

 準備が面倒だったり、使い心地が悪いは、絶対、イヤ!


「これはまた、難問だな。特に最後のやつは、難しそうだ」


「えっ、そうなの?」


 てっきり、最初の奴が一番大変だと思っていたわたしは、ギレスの言葉に驚いた。


「まぁな。この国で走ってる馬車は、基本的な形は4種類しかないんだよ。だから、それに合わせて外枠を組めば良いだけだ。2番目も最初のやつの応用で、枠を工夫すれば、何とかなるし、色なんて塗っちまえば済む話だ」


 言われてみれば、確かにそうだ。


「だが、最後の奴はそうは行かない。まず、トイレなんてものは、直ぐに使えないと意味が無い。だけど嬢ちゃんの望み通りに小さく収納してしまうと、準備に手間取る。ここらの問題を解決しないといけないし、特許のことを考えたら、これまでにない形で、なおかつ、使いやすい物を考えなきゃなんねぇ」


 ふーん。とりあえず、大変なのは判った。じゃあ、次。『組み立てトイレ』ね。


 これは、『少し背の高い衝立で周りを囲んで、その中に座って使えるトイレを、置きたい。中からかけれる鍵も欲しい』ぐらいかな。ま、特に可愛さは要らないし、そんなに難しくないよね。


「甘いな」


「えっ」


「嬢ちゃんは衝立の延長、位に考えてるようだが、実際、今言った物は、街中トイレの簡易版だ。設置のしやすさは当然ながら、どう固定するか、安定させるかが大事になんだよ。強い風が吹く度に、倒れたら困るだろうが」


 パタンと倒れるトイレの中に、座る自分の姿が思い浮かび、


「いやぁー!それは、絶対イヤ過ぎるぅー!」


 ジタバタと走り回りながら、叫ぶ。そんな事になったら、一生、立ち直れない!


「よし、安定、固定は大事、決定!」


 大きく書き込み、グリグリと丸で囲む。これで、大丈夫、忘れない!


「なぁ、馬車にトイレを付けるのに、組み立てトイレまで必要なのか?」


「だって、視察に行くのは、うちの家族3人と、護衛のアランさんと、侍女兼護衛のルリさんの5人だから、トイレが1つだと、絶対、困る」


 当たり前の事を、聞くんじゃないよ、アドル。


「なるほどな。たしかに、うちでも朝のトイレは、争奪戦だ」


 兄弟の多いアドルが頷くと、 


「うちはこないだ、トイレを増設した」


 娘が二人いるキリアンが、ため息を付く。どの家にも、トイレ問題はあるようだ。


「さて、エミィの希望が出揃ったところで、出来る事から考えていきましょう」


 師匠の言葉で、話し合いが始まった。




   ◇*◇*◇*




 その夜、わたしはトモヨさんと、いつもの場所にいた。赤い台には、みたらし団子とお茶が置いてあり、トモヨさんは歌を歌っている。

 どこかの星を探す歌のようだが、知らない曲なので、上手かどうかまでは判らない。でも楽しそうなので、まぁいいやと思い、歌い終わると拍手をした。 


 その後はいつものように、おやつを食べながら、おしゃべりをする。もちろん馬車のことも話した。するとトモヨさんは笑いながら、


「そういえば、去年も似たような事が、あったわねぇ」


 と言った。その言葉で、一年ほど前の事を思い出す。


「うん。あの時は、主任デザイナーになった」


 その頃、わたしは『お使い』するのが楽しくて、みんなに声をかけては、ちょっとした『お使い』を引き受けていた。まぁ、『近くのお店で、糸を買ってきて』とか、『これを近所の◯◯さんに届けて』という、よくあるやつ。


 たけど、ほめられたり、お礼を言われたり、(塀や屋根を使った)素敵な近道を発見したりと、すごく楽しかった。

 だから、父さまから「なにか困った事は無い?」って聞かれた時に、思わず可愛い靴では(塀や屋根が)走りにくいって話をしたら、今回と同じように『技術部』に連れて行かれ、気が付けばデザイナーになっていた。しかも、主任!


 デザイナーってだけでも、なんだか素敵なのに、『主任デザイナー』!ふへへん、ふほほほ、ステキな響き……


 浮かれ舞い上がったわたしは、山ほど靴の絵を描きちらし、それを専属デザイナーさんがデザイン画にしてくれ、更に欲しい機能が書かれる。そうして、次々と新商品として開発されていった。


 縫製部も巻き込んで、あの時作られた靴は、『乙女の快足シリーズ』として売りに出され、可愛い上に歩きやすいと、もっぱらの評判だ。最近は大人サイズも売り出され、こちらも良い感じらしい。


(あれっ?でも、あれから誰も、わたしにお使いを頼まなくなったような……うーん?)


 首をひねるわたしを見て、トモヨさんはまた、クスクスと笑った。




「こんな事が出来るのが、夢の良いところよねぇ」


 言いながらトモヨさんは、いろんな物をひょいひょいと台の上に並べていく。それは金属に布が取り付けられた物や、四角い木の箱、折り畳まれた丸い布等で、見ただけでは何に使う物か、判らない物ばかりだ。


「これらはね、ちょっとした発想の転換と、丁寧な仕事が生み出した物達よ。実際に触って動かしてみたら、よく判るわ。これ、ちょっと引っ張ってみて」


 1つ手渡され、言われた通りに動かしてみる。


 カシャン。


 小さな音がして、それは椅子の形になった。なんだか楽しくなって、次々に動かしていく。椅子になるのは、他にもあった。真ん中を押したり、引っ張り上げると、椅子になる。

 その度に、座ってみた。どれも、中々いい感じだ。


 他にも、引き伸ばすと大きな入れ物になったり、四角の箱が長四角に変わったりした。大きさのちがう金属が幾つも重なった物は、伸ばすとコップになったので、試しに水を入れてみる。  


(えーっ、すごい。漏れてこない!)


 そして丸い布は、ポンッと広がり、小さな穴ぐらみたいになった。中に入って転がると、すごく眠くなってきて、目を閉じた……と思ったのに、なぜか目が覚めた。


 えっ、朝になってる……もしかして、まだ夢の中かもしれないと、ちぼっとほっぺを゙引っ張ると、少し痛いし、太陽は眩しい。


 なんだろう……すごく損した気分だ……

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