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 英殿の文化祭が終わり11月も半ばを迎えていた。夏は一面緑だった山も茶色に変わり、本格的な冬を迎えようとしていた。


 乾いた冷たい風が強く吹き、落ち葉を遠くへ運ぶある日曜日の夜ーーーー。


 ホテル・アスカルテに来客が訪れた。招かねざる来客ーーーー肝試しにくる不埒者ども。


 蒼汰がそれに気がついたのは微睡と現実を行ったり来たりしていたとき。聞き慣れた錆た扉が動く音が室内に響いた。足音は軽いーーーー女性だ。


 女性一人で肝試しにくるのも珍しい。大体肝試しにくる女性は男連れ。彼氏についてくる方が多かった。


 それより珍しいのはこの女が玲奈を索敵をすり抜けたことだ。日に日に精度と範囲を広げる玲奈の索敵レーダーは人外の域に達しているというのに……。


 この女も玲奈と同様……人外に向かっている人種なのかもしれない。


 ペンライトの光が室内の壁を走りまわった。タンスを開けて物色を始める。不法侵入だけでなく、ドロボーでもあるようだ。金銭目当てではなく武勇伝の証拠として持ち帰りたいのだろう。


 残念だがそのタンスには着替えしか入っていない。お宝の海月ちゃんフィギュアに手を出される前に取り押さえた方が良さそうだ。


 幸い布団に包まっている蒼汰には気がついていない。背後から両腕を掴む。



「おい! 止めないか!

「い、いやーーーーーっ!」


 暴れるので腕に力を入れる。厚手の服越しでも分かる女性の二の腕の細さ。正義はコチラにあるはずなのに悪役気分を味わわされる。


「おい、大人しくしろ」 

「イヤァ! やめてっ! 離して!」


 彼女の手からペンライトが落ちた。その衝撃でライトが消える。訪れた暗闇が彼女の恐怖心を駆り立てより激しく暴れだした。


「落ち着け! 何もしないから! 暴れるな!」


  そんな抵抗を止めるはずもない。腕を振り払おとするうちに彼女はバランスを崩し、蒼汰を巻き込みながら転んだ。

 

「だっ、誰かぁ! 助けて」


 ここ一番の大きな声。その瞬間部屋の明かりが点く。


「お兄!」

 

 息を切らして飛び込んできた玲奈。みるみる玲奈の顔が青ざめる。分かります。傍から見れば女の人を押し倒したようにしか見えない。


「違うぞ玲奈。この人はいつもので、タンスまで開けてドロボーしようとしていたから」

「そういう言い訳はその人の上から退いてからにしたら」


 玲奈の軽蔑の眼差しが痛い。


 ここは七階だし、入口には玲奈が仁王立ちしているし逃げられることはないだろう。


 彼女を拘束するのをやめて玲奈の横まで離れる。戒めを解かれた彼女はよく通る声でなく。流石にこんなに泣かれると罪悪感もでてくる。


「なぁ、どうすれば良いと思う?」

「私が知る訳ないでしょ馬鹿お兄」

 

 泣いている女を慰める手段なんか知らない。できることと言えば謝ることくらいしか無かった。


 ベッドから毛布をとると彼女に掛ける。


「乱暴にしすぎたのは悪かった。謝る…………」


 それだけ言い彼女の側を離れた。それにしても彼女……どこかで見たような覚えがある。


 俯きながら涙を拭っているので記憶と一致しない。ちゃんと顔を見れれば思い出せるかもしれないが。


 玲奈は「はい、お兄。電話」とスマホを渡してきた。今までの不法侵入者はほとんど警察に通報してきた。


「強姦してたんじゃないって信じてくれるのか?」

「当たり前でしょ。お兄がそういう人間じゃないのは知ってる」

「玲奈!」

「ホラ、さっさと警察に引き渡して」


 その瞬間、彼女が叫ぶ。


「け、警察はやめてくださいっ!」


 真っ赤に泣き腫らした大きな瞳が縋るように見てくる。どこかで見たことがある気がしていたが彼女の顔を見てようやく分かった。


「雛彩羽瑠唯…………」


 名前を呼ばれた彼女は驚いた顔を見せる。正直過ぎるくらい素直な反応た。


 

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