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妹の玲奈は五階フロアを自由に使っている。一人一部屋しか貰えない一般的な家と比べれば贅沢だ。ただ、そのほとんどは持て余してしまうが……。
それと世間では廃墟扱いされているが、決してそんなことはない。確かに老朽化しているところはある。コンクリートにヒビが入っている場所はあるし、ドアは蝶番が錆びて動かすと音がなる。当時からある家具家電は粗大ゴミ回収するお金が無いのでボロボロのままで放置してある。
それだけで決して住めない廃墟じゃないのだ。
「おーい。玲奈ー。今日はどこにいるんだぁ?」
蒼汰は決まった部屋で過ごすが玲奈はその日の気分で過ごす部屋を変える。玲奈を探して廊下を歩いていると突き当りで白いワンピースの少女がすぅ~と通り消えた。
「いた! 玲奈!」
今日は突き当りの部屋にいるらしい。追いかけてドアをノックする。
「玲奈この部屋にいるんだろー? 話しがあるんだ」
「ちょっと待って! 今、鍵を開けるから!」
玲奈の声がしたあと、ガチャリと解錠された音がするーーーー隣の部屋のもう一つ隣の部屋から。
「なんでぇ! たしかにこの部屋に入ったよね!」
扉の隙間からひょこりと顔を出した妹がニマニマと笑っている。
「ムフフッ、お兄。気配の読みが全然なってないね~」
「気配とか一般人には読めないものだからな!」
気配を読むなんて武術の達人の域ではないだろうか? 若干、十五歳にしてその域に片足を突っ込んでいる妹に兄は戦々恐々とするしかない。
「玲奈。世界最強を目指してないるのか? 武道大会に出て優勝するのが夢、とか?」
この変な質問をしてしまったのは樹高のせいだ。妹の顔がキョトンとした。
「お兄。ちょっと何言ってるか分かんない。夢とか分かんないけど、少なくともそんなの目指してないから。あっ。でも可愛い女の子にはなりたいと思ってるよ、ほらっ!」
玲奈はハーフアップに結った自慢の髪をアピールしてきた。うん。普通に可愛い。容姿とかじゃなくこういう子供っぽい仕草を見るとそう思ってしまう。
コレは兄としての本能なのだろう。
「それで話しって? まさか今のじゃないよね?」
「そうだった。英殿女子校の文化祭に樹高と行くんだけど一緒に行かないかな? って。修行ばっかじゃなくて息抜きもしたほうが良いだろ?」
「お兄が言うなら別にいいけど…⁉………。女子校って格闘技系の部活あるの?」
「戦いに行くんじゃありませんっ!!」
この妹の脳の回路はイカレているのだろうか? 文化祭に行くと言ったのに何故、技を競うつもりになっているんだ。妹の将来への不安が急上昇した。