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只酔いながら白く染まる

作者: アユの塩焼き


私は暗い檻の中にいる。

お気に入りだって何度も肌を重ねてくれたのに、今日の夜になって彼は急に人が変わったみたいに私をここに投げ捨てていった。

それはほんとに突然のことで、立ち去る彼の姿に呆然としているうちに、気付いたら薄汚れた牢獄に閉じ込められていた。


私は何か悪いことをしてしまったのだろうか。

たしかに距離感は他人よりも近かったかもしれないし、私が君を守るって言ったのもちょっと鬱陶しかったのかもしれない。


でもこんな仕打ちはひどいじゃんか。今まで君のためだけを思って行動してきたのに。ずっと君だけを見てきたのに。


他に好きな子が出来たんだったらそう言ってよ。私はもういらなくなったって。

それはもちろん悲しいけどさ、でもちゃんと言ってくれたら、気持ちの整理もできたかもしれないじゃん。

前を向いて次の人を探そうって、君のことを忘れようって、そう思えたかもしれないじゃん。


でもこんな風に何の説明もなく引き離されたらさ、何か言えない理由があったのかもって心配になっちゃうよ。

ほんとはまだ君は私のことを大事に思っているかもしれないって、ありもしない幻想に期待しちゃうんだよ。


だからさ、今でも君のことが頭から離れなくなって、空っぽの頭でずっと考えてしまうんだ。


もっと君と一緒に居たかった、って__



------


私は暗い闇の中にいる。

檻から逃げ出すことも許されず、重力のままに更なる深みへと吸い込まれていく。


ああ、このまま私は死ぬのだろう、だんだんと小さく遠ざかっていく光の中でそう思う。

悲しんでくれる人なんていないだろう。家族や友人はとっくの昔にどこかへ消えていった。

彼との突然の別れからも、どれだけの時間が経ったのかはわからない。


君だってもう私のことなんか忘れている頃かもしれない。

でも、そうだといいな。私の思い出の中にいる君は優しくて、虫を殺すこともできないような人だったから。

どうか、こんな惨めな私のせいで、君が心を痛めてしまわないように。


・・・なんて、やっぱり私はわがままだな。

君との日々が偽りだったって認められないんだから。

もう手遅れなのに、まだ君のことを諦めきれないんだ。

優しかった君はどこか遠くで、今頃他の子と遊んでいるだろうに。


でも君が幸せならそれでいいんだ。

それが私にとって一番大切だから。

だから誰といたって、どんなことをしていたって、君が笑顔でいてくれたら私はそれを思うだけで幸せなんだ。


・・・あーあ、ウソばっかりだ。


ほんとは君が私の一番であるように。


私は君の一番になりたかった__



------


私は暗い海の中にいる。

落っこちた先で襲い掛かる波に揉まれ続け、もう上下の感覚さえも掴めない。


身体が揺さぶられるたびに私の中の何かが溶けだして、思考がだんだんと鈍っていくのが自分でもわかってしまう。


そんな薄れゆく意識の中でも、私はやっぱり君のことを考えてしまうんだ。


・・・君と一緒に遊びに行った場所はたくさんあったけど、海に行ったことはなかったかな。

季節柄、そういうことはできなかったもんね。

それに君が泳ぐときには私は傍にいられないし。


横に立つことはできないから、その背中を見守ることしかできないんだ。

でもきみは振り返って、太陽に照らされた眩しい笑顔を私に見せてくれたんだろうな。


あれ、きみを忘れられたら、なんて言ったせいかな。

きみの顔も思い出せなくなってきちゃったや。


きみの笑顔が、やさしさが、温もりが、走馬灯のようにぼんやりと浮かんでは水の中へとながれていく。

なによりも大切な思い出が、水玉みたいにふわふわと漂ってどこか遠くにきえていく。


いやだよ。忘れたくないよ。

それは私のたからものだから。

わたしだけの"色"なんだから。


それなのに。

なんでかな、からだが思うようにうごかないや。

うでを伸ばしてつかもうとしても、そのきもちがぜんぜんとどかないんだ。


どうすることもできなくて、もどかしい。


きみのすがたが、どんどんみえなくなっていく。



__ああ、もう。

もう、なにも、かんがえられない。


さいごに、ひとつだけ。


さよなら、すきだよ。



------


私は白い光の中にいる。

目の前には誰かがいて、大粒の涙を流している。

誰かはわからないけれど、ぽっかりと空いた胸の中が無性にくすぐられる。


なんでだろう。私は君のことなんて知らないはずなのに。

なんで、そんな顔は嫌だって思ってしまうんだろう。

なんで、笑顔が似合うって思ってしまうんだろう。

なんで、零れ落ちる水滴で私も袖を濡らしているんだろう。


わからない。

全然、わかんないや。


何も思い出せない。

ここがどこかも、今がいつかも、君が誰かも、私が誰かも。


でも、君には笑っていてほしい。

それだけは確かだ。


それだけで、十分だ。


君のことなんて知らない。泣いてる理由もわからない。

でも今は、そんなことどうだっていい。


私がその涙を拭ってあげる。


だからさ。



私を着て、一緒に遊びに出かけようよ。




@@@@@@@@@@@@@

+++++++++++++

%%%%%%%%%%%%%

*************

$$$$$$$$$$$$$





ネタバレ?







冬物を自宅で洗濯しようとした結果、色落ちさせてしまうお話です。

それ以外の何物でもありません。

明るい話になるはずでした。


檻:洗濯ネット

闇:洗濯槽

海:洗濯


一応

タイトル:ただよい(漂い) 白 で漂白

キーワード:頭文字で せん たく い ろ おち 

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