愛され方
――どん。
――がしゃん。
壁の向こうで、音がする。
イヤホンで塞いでいる耳は、その音を確かに聞き分ける。
「――っ、!」
「――! ――――っ!」
甲高い声と、低く響く声を、確かに。
暗い部屋。モニターだけが光源。
《彼女とデートしてきた》
《残業確定》
《夕ご飯作った~!》
《買い物行かなきゃだけど、めんどくせー》
いろんな人が生きている世界が映し出される。
――かちかち。
自分の手が文字を打つ音が、イヤホンの隙間から聞こえる。
《誰かに、愛さr
――どん。
「私は、この子と一緒に死ぬわ!」
衝撃でイヤホンが外れた右耳が、久しぶりにしっかり、母親の声を聞き取った。
ねえ、母さん。
俺は、そう言う愛され方が欲しかったわけでは、――、