魔力
結論から言うと、私にも魔力は存在した。元々あったのか、この世界に来て備わったのかはわからないけれど…ここで生きていく上で必要なものらしいので素直に喜ぶ事とする。
エルイットさんと手を合わせてすぐに、温かいお茶を飲んだ時のようにじわっと何かが体を巡ったのだ。これが魔力かな?全身に行き渡れー…なんて軽く思っただけで、成功だよ!なんて言われてしまい。
呆気なさすぎて感動も何もなかったりする。
「いやぁ、良かった良かった!やっぱり魔力があったねぇ!これで魔力紋も見えるだろう?」
「え、どうやったら見えるんですか?」
「目に魔力を込めるんだよ。ええと…力を入れる感覚、かな?」
目に、力を…?!
魔力があると言われたし、間違ってビームとか出ちゃったらどうしよう。かなり危険だし、それ以上に面白い事になってしまう。
それとなく伝えれば、魔法詠唱をしなければ魔力が周りに害を与える事はないそうでホッと息を吐く。
「目に、力…魔力を…!」
開・眼!
…と、言いたいのをなんとか堪える。仕方ないじゃん!魔力あるって言われたんだよ!気分が高まってるんだって!言いたくもなるわ!
「…あ。エルイットさん、モモのおでこに何か…見えました」
「それが魔力紋だよ。じゃあ糸は見えるかな?」
「………はい!ちゃんと繋がってます!」
「良かったねぇ。その糸が従魔の印になるからね。契約を解消しない限り切れる事はないから安心おしよ。ちなみに解消するには、」
「あ、それは大丈夫です。死ぬまで解消しません」
私が突然真顔になったからか、エルイットさんはちょっと引いたらしかった。けどモモと契約解消なんて冗談じゃない!そりゃ、…モモが嫌がったら、考えるかもしれないけど………でも嫌だ。モモの事はずっと面倒見ると決めて家族に迎えたんだから。人として責任は持たなきゃいけない!
「魔法は、個人で得手不得手があるからねぇ。魔力量にもよるし。大人でも使えない人がいるから、気にしなくていいよ」
「そうなんですね。まぁ魔法は後でいいかな…」
使えるのかもしれないが、今はそれどころじゃないからね。
その後通貨の話を聞いてみれば、幸運にも日本と似たようなものだった。ただしこちらは全てコイン。そうか、魔法の鞄があるから重さも気にしなくて良いんだ…いいなぁ鞄欲しいなぁ。
「ところで、サシャさんのヘルハウンドの得意属性はなんだい?」
「へっ…?!と、得意属性…?!」
「やっぱりヘルハウンドといえば炎属性…いや、雷も捨てがたいなぁ…あぁ!土属性もいい!」
「また知らない事が……!…あの、エルイットさん!属性って、?」
「…あ、そうか。それも知らなかったよねぇ、ごめんよ」
この世界には、魔法に属性があるらしい。
炎、雷、水、風、土、聖、闇、無…魔法はこの八属性から派生して発動されるらしい。そして合わせて使うこともあるという。
例えば魔法の鞄に使われている空間魔法と重力魔法は聖属性と無属性だそうだ。ううん…このへんの理論は今聞かない方がいい気がする…多分法則があるんだろうし。
「モモの属性は…わからないですね。一度も魔法を使った事がないので」
「え…えぇっ!へ、ヘルハウンドがかい?!」
「争いとは無縁の場所にいたのでー…あははー…」
「そ、そうかい…それはまぁ…勿体ないけれど、必要がなかったのなら仕方がないねぇ…」
微妙になった空気を誤魔化すように、タイミングよくモモがあくびをしてくれて。寝ましょうかと提案すれば、エルイットさんは毛布を2枚貸してくれた。ほんとその鞄どれだけ入るの。
「見張りはいらないねぇ。何かあればモモ君が起きるだろう、ヘルハウンドは警戒心が強いから」
「あの、今日はいろいろとありがとうございました。世間知らずで本当すみませんでした…」
「そんな、いいんだよ!最初にも言ったけれど、偶然かもしれないが私は君達に助けられたからねぇ。こちらがお礼を言いたいくらいだよ。それに、人には様々な事情があるってもんさ」
「でも、怪しかったですよね…?」
エルイットさんはにっこり笑った。
「これでも、長年商人として生きているからねぇ。悪人と善人の見分けには自信があるよ」
そう言われてはもう何も言えない。感謝する事しか出来ないな。いつかこの恩を返せたら良いのだけれど…
「さ、明日は早めに王都へ戻らないと。馬車を先に行かせてしまっているからね。サシャさんも良かったら一緒に行かないかい?」
「こ、こちらから是非!お願いします!入り方も知らないので、その…」
「ふふふ、だと思ったよ。まぁ私としてはヘルハウンドが一緒にいてくれたら、という下心があったんだけれど」
さすが商人、抜け目ないなぁ…!
じゃあおやすみ、と毛布にくるまったエルイットさんは、モモの顔の横で寝る事にしたらしい。随分と信用してくれている。まぁモモは信用してないんだろうけど…昔から警戒してる方向いて寝るもんね、モモ。
今日は私もモモの大きな顔横で眠ろうかと腰を上げかけ、気付いた。めっちゃ見てるねモモ君や…!
(楓は尻)
「………え、…」
(いつも尻だろ)
柴犬の真顔、そこそこ怖い。
いや、そりゃ…ね。犬は安心出来る人に背中を向けたりお尻をくっつけたりするというけど…ずっとモモのお尻がこっち向くの嬉しかったけど…!
今日だけは良くないですか?
(尻)
私は無言でモモの尻に顔を埋めた。うぅっ…お尻可愛いし嬉しいけどなんか悔しいっ…!