表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

ループ

「なんだよこれ……どうなってんだ?」


 曲がりくねった山道を車を走らせながら、俺はカーナビにチラリと視線を落として悪態を吐いた。

 車の現在地を示す青い光点は、ずいぶん前からピクリとも動いていない。そもそもその現在地からしてバグっていて、道路ではなくどこかの山の中にいることになっていた。


「まあ、こんな田舎の山の中じゃ、GPSがおかしくなることはよくあることだよ」

「ま、そうだけどよ」


 助手席に座る弟のなだめるような言葉に頷きながら、しかし不満は治まらない。と、言うのも……


「いつまで続くんだよこの道……もう日が暮れちまったぞ」


 事前に調べた感じでは、とっくに山の麓に出ていい時間だった。なのに、もうかれこれ2時間以上も曲がりくねった山道を走り続けている。


「道、間違えたかなぁ。どこかに脇道があったとか?」

「その可能性はあるな……ここまで来ると」

「どこかで道を訊いた方がいいかもね。って言っても、さっきから誰とも会わないけど……」


 弟の言う通りだった。これだけ走ってるのに、さっきから建物はおろか対向車すら見かけない。いくら田舎とはいえ、一台くらいは他の車と遭遇してもいいはずなのに。

 それからもしばらくの間、黙って代り映えのしない山道を走り続けていると、弟が遠慮がちに声を上げた。


「ねぇ、兄貴……」

「ん?」

「なんか……さっきから同じところ走ってない?」

「はぁ? おいおい、樹海じゃあるまいし」

「いや、でも……ほら、あれ」


 弟が指し示した方を見ると、そこには落石注意の標識が。


「標識がどうした?」

「よく見て。あれ、右端が少し曲がってるでしょ?」

「ん? ああ、たしかにちょっと歪んでるな」

「あれ、よく覚えておいて」


 いつになく緊張した様子の弟にされ、俺は黙って頷いた。

 そのまま、またしばらく無言で山道を走り……何度目になるか分からないカーブを曲がったところで、弟が声を上げた。


「ほら! あれ!」

「うぉっ、なんだよ脅かすなよ……」

「あれ! あれ見てよ! 同じでしょ!?」

「え……?」


 上ずった声で叫ぶ弟に言われるまま見ると、そこにはまたしても落石注意の標識。そしてそれは……十数分前に見たものと同じく、右端がぐにゃりと曲がっていた。


「やっぱり同じやつだよ! さっきからずっとループしてる!!」

「いやいや、んなバカな……」


 そう口では言いつつ、しかし改めて注意してみると、どうにも今走っている道にも見覚えがある気がする。

 左のヘアピンカーブ。右の緩いカーブ。しばらくストレート。視界の悪いS字カーブ……この順番、前にもやった気が……


「いや、まさか」


 背筋に冷たいものを感じながらも、俺はそれを振り切るように笑う。

 と、ちょうどそこで背後から車の音が聞こえてきて、俺は驚くと同時に少し安心した。

 しかし、ルームミラー越しに背後を見た瞬間、その安心感は吹き飛んだ。


「なんだあの車……なんで、ライトを点けてないんだ?」


 そこにいたのは、なぜか夜の山道なのにライトを点けていない一台の車。


「ヤバイ……ヤバイよ兄貴。あの車、なんかヤバイ!」


 焦燥もあらわに、震え声を上げる弟。しかし、俺も同意だった。

 なぜかは分からない。だが、あの車に追いつかれたら何か恐ろしいことが起きると、本能が全力で警鐘を鳴らしていた。


 危機感に衝き動かされるまま、アクセルを踏み込む。たちまちスピードを上げて山道を駆け抜ける車。

 だが、振り切れない。背後の車は、相変わらずライトを点けないまま、じりじりと距離を詰めてくる。

 同時に、車内には車が走る音が不自然なほど大きく響き始めた。明らかにおかしい。窓を閉めているのに、背後の車が走る音がこんなにはっきり聞こえるはずがない。


 しかし、そうこうしている間にもどんどん距離は詰められ、車内に響く音は騒音と言ってもいいほど大きくなっていた。

 と、そこで急に、ルームミラー越しに背後の車の運転席が見えた。

 黒い人影。顔はよく見えない。だが……その人影が、ハンドルを握っていないことだけは、はっきりと分かった。

 その人影の、闇に沈んでよく見えない顔が……ニヤリと、歯を剥き出しにして笑った。


「兄貴! 前!!」

「え?」


 弟の叫びに視線を前に戻すと、すぐ目の前には急カーブ。

 慌ててブレーキを踏むが、しかしなぜかブレーキが利かない。ハンドルも、まるで固定されたかのように全く動かせない。


「くそっ、なんだよこれ……!!?」

「な、なにやってんだよ!! 早くブレーキ!!」

「利かねぇ、利かねぇんだよ! くそっ!」


 そうしている間に、ガードレールが近付き……もう駄目だと目をつむった瞬間。突如としてブレーキが利いた。



 キキィィィーーー!!! ザザザッ!!



 けたたましい音と共に、前方に体が放り出されそうになる。

 シートベルトに体を締め付けられ、一瞬息が詰まる思いをしながら視線を上げると、そこは山の麓の交差点だった。


「え……?」

「は……?」


 弟と2人、呆然とした声を漏らして背後を振り返るが、そこには例の車は姿も形もなく。暗い山道が上に向かって伸びているだけだった。


「なんだったんだ……?」


 首を傾げながら前に向き直ると、弟が震える指で俺の前を指さした。


「兄貴……それ……」

「ん?」

「ガソリン……減ってない。あんなに走ってたのに」


 言われてみると、たしかに数時間前に給油してから、ほとんどメーターが動いていなかった。あんなに長いこと、山道を走り続けていたのに。


「マジかよ……ガソリン無駄使いせずに済んだじゃん」

「だね。ラッキー☆」


 そう言って笑い合うと、俺達は何事もなかったかのように車を発進させた。

※ガソリンは取られずとも時間は取られたんだから、別にラッキーではない(←ツッコむところそこじゃない)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 気づいたらミニ四駆(或いはラジコンカー)に自我が宿った話かと思いきや普通にホラーだったというオチ。
[一言]  幽霊? の笑みの意味を予想してみました。  1・『一体いつから山道を走行していると錯覚していた・・・・・・?』  2・『この道に終わりはない・・・これがG(ゴースト)・E(エンディン…
[良い点] ギャグだと思い込んでたらちゃんと(?)ホラー(?)でした。 [一言] ここの話数が増える予想ほんとに当たってしまった…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ