腐れ怨霊
呪われた心霊スポット、“悲恋の館”
かつて、この館に住んでいた令嬢が屋敷の使用人と身分違いの恋に落ちた。しかし、そのことに激怒した彼女の父である屋敷の主人は、相手の使用人を激しく鞭打った上で追放。娘を資産家の御曹司と無理矢理結婚させようとした。
その結果、父の行いと叶わぬ恋に苦しんだ挙句、令嬢は自ら命を絶った。そしてそれ以来、カップルでこの館を訪れると、怨霊と化した令嬢によって呪われるという……噂は、聞いていた。知った上で、カップルでここに来たのだ。だが、まさか……
「マジ、かよ……!?」
目の前に現れた、ドレスを着た美しい娘。その顔に生気はなく、カッと大きく見開かれた目には、愛し合う恋人たちへの凄まじい嫉妬と憎悪が宿っていた。
何より……その首には果物ナイフが突き刺さっており、そこから止めどなく血が流れ続けていた。
(ああ、そう言えば……噂によると、令嬢は自分の部屋でナイフを首に刺して死んだんだっけ……?)
恐怖に麻痺した脳でそんなことを考えながら、俺は震える腕を持ち上げて恋人を背に庇った。
嫌がるこいつを強引に連れてきたのは俺だ。せめて、こいつだけでも逃がさないと……
そう決意する俺の肩を、背後から響也が掴んだ。
「無理するな、哲司……足が震えているぞ?」
「響也……」
眼鏡を押し上げながら平静を装った顔でそう言う響也だが、俺の肩に置かれた手は小さく震えていた。やっぱりこいつも怖いのだ。そう思うと、胸の奥から勇気が湧き上がってくる。
「ここは私に任せろ」
「へっ、馬鹿言ってんじゃねぇよ。もやし眼鏡は引っ込んでな。これは俺の役目だろうが」
「ふっ……まさか、お前に馬鹿といわれる日が来ようとはな」
いつものように皮肉っぽい笑みを浮かべると、響也は強引に俺の隣に並んだ。
こうなったら意地でも引かないことは分かっているので、俺も観念して口元に不敵な笑みを浮かべると、覚悟を決めて前に向き直る。
すると、令嬢の怨霊はただでさえ見開いていた目を更に大きく見開き、立ち止まって俺と響也を交互に見ていた。
身構える俺と響也の前で、令嬢の怨霊は不意にピタリと動きを止め……鼻からタラリと血を流した。
『……きらいじゃない』
そして、しわがれた声でそう呟くと、スッと姿を消した。……それ以降は特に何もなく、俺達は普通に館から脱出することに成功した。
……の、だが、それ以来。響也と2人でいる時に、目を血走らせたあの怨霊が陰からじっとこちらを見ていることがあるんだが……流石にお祓いに行った方がいいだろうか?
このあと、女人禁制のお寺にお祓いに行ったら、妙に色気があるイケ坊主が出てきて怨霊大興奮。