入場お断り
親戚が「今年の参拝は適当に近場の神社で済ます」と言っているのを聞いて思い付いたネタ。
「あれ~? こんなところに神社あったっけ?」
「ん? ……あれ、ホントだ」
三が日。地元の神社に参拝に行こうと山沿いの道を彼女と歩いていると、不意に彼女が山の方を向いて声を上げた。
見れば、そこにはたしかに見覚えがない鳥居と上へと続く長い階段。この道は今まで何度も通っているが、こんなものがあった記憶はなかった。しかし、見るからに年季の入った鳥居と苔むした階段からして、最近できたものでもなさそうだ。
「……たまたま見落としてただけかなぁ?」
首を傾げる俺の手を引いて、彼女が弾んだ声を上げる。
「ねぇねぇ、せっかくだから行ってみようよ」
「えぇ~? 参拝はどうすんだよ?」
「ここですればいいじゃん。今のご時世、わざわざ人が集まる大きな神社に行くことないって!」
「まあ、そりゃそうだけど……」
彼女の正論に、俺も少し心が揺れる。それに、今日は結構風が寒い。近場で手早く済ませられるなら、それに越したことはない。
「う~ん……そうだなぁ」
改めて、目の前の鳥居と階段を見上げる。
視線の先には人どころか生き物の気配が全くなく、葉擦れの音ですらどこか遠く感じられる。良く言えば静謐な……悪く言えば、なんだか不気味な雰囲気が漂っていた。
「ここ……大丈夫か?」
思わずそう独り言ちる俺の手を、彼女が引っ張る。
「ねぇ、寒いよぉ~。ね、ここでいいじゃん」
「まあ、なぁ……」
今一つ決心がつかない俺に、彼女がフッと表情を曇らせる。
「それに……下手に大きい神社行くと、そこに祀られてる神様と私の守護霊が喧嘩するかもしれないし……」
「ああ……なんかあったなぁ一昨年。氏神と喧嘩したんだっけ?」
「そうそう、結構大変だったんだから」
「でも、勝ったんだろ?」
「うん、余裕の圧勝。でも、その神様地元ではかなりの力を持った神様だったみたいで……しばらくそこの土地に悪霊湧くようになっちゃったんだよね~。まあ、責任持ってうちの子に全部食べてもらったけど」
「マジで強いなお前の守護霊……一体どんな霊なんだよ」
「ん~~説明して認識しちゃうと、下手したら精神に異常きたしちゃうかも」
「なにそれコワイ。やっぱり説明しなくていいわ」
「まあまあそれはいいからさ。行こうよ? ね?」
「……分かったよ。じゃあここで済ますか」
彼女の言葉に頷き、改めて前を向くと……
「あれ?」
「え? なんで?」
なぜか、ついさっきまであったはずの鳥居と階段が影も形もなくなっていた。周囲を見回すが、山の斜面には鬱蒼とした茂みが続いているばかりで、人工的な建造物など全く見当たらない。
しばらく辺りを散策してみるがやっぱり見付からず、地図アプリで検索をしてもここに神社など存在しないことになっていた。
「……どういうことだ?」
「さあ?」
彼女と二人で首を傾げる。だが、見付からないものは仕方がない。
「……ま、浮気せずにちゃんと目当ての神社に行けってことだな」
「う~ん、まあ仕方ないっかぁ。……今年は神様と喧嘩しないといいなぁ」
そう言って二人で肩を竦めると、俺達は再び神社を目指して歩き出すのだった。
???「あっぶねぇ、なんかヤベーの誘い込むところだった……」
‰◆Π「今日ノトコロハ、見逃シテヤル」
???「っ!?」