内側から叩かれるロッカー
久しぶりに、本当にヒドイ小説を書いてしまった……
学園の七不思議の1つ……『内側から叩かれるロッカー』
昔、クラスでいじめられていた1人の女生徒が、夏休みの直前に教室の掃除用具入れに閉じ込められ、外側から叩く蹴るされるといういじめを受けた。少女のクラスメート達は、ロッカー内に響く打撃音と振動に怯える彼女の悲鳴をひとしきり楽しんだ後、彼女を置き去りにして帰ってしまった。……ロッカーの扉がゆがみ、開かなくなっていることに気付かずに。
その後、少女は必死に助けを求めたが、夏休みに入った学校でその声に気付く者はおらず。やがて、少女はそのまま…………
以来夏休みに入ると、1年3組の教室では夜な夜なロッカーが内側から叩かれ、中から「出して、出して」という声が……その声にロッカーを開けたが最後、死ぬまでその中に閉じ込められるという……
「いや、ありえんだろ」
高校2年の夏休み。肝試しで夜の校舎に忍び込んだ俺は、友人から渡されたメモを読みながら思わずツッコんだ。
いくら夏休みでも、教師が1人も学校に来ないなんてありえない。そもそも、学校を閉める前に先生なり警備員なりが巡回するだろうから、普通に考えてその時に発見されるだろう。
学校の怪談なんてそんなものかもしれないが、ここまでお粗末だとかえって冷める。これくらいなら、「理由は不明だがロッカーを叩く音がする」と言われた方がまだ怖い。
「そもそも、そんな事件聞いたことが……っと、ここか」
目的の1年3組に着き、扉を開ける。と……すぐに、その音に気付いた。
教室後方の廊下側隅に設置された、掃除用具入れのロッカー。その中から、バンバンという薄い金属の板を叩くような音と、「出して、出して……」というか細い女の声が……
「はいはい、録音録音」
迂闊にもちょっとビビってしまった俺は、自分を鼓舞するためにもあえて明るい口調でそう言うと、ロッカーに近付いて扉を開けた。
「え──」
そこには、何もなかった。音を出している機械はもちろん、本来あるはずの箒やちり取りすらなかった。
ただ……ガランとしたロッカーの底板に、黒い……不自然なほどに黒い、影がひとつ……
「うわっ!?」
それを認識した瞬間、俺はなにかに両肩を鷲掴みにされ、無理矢理ロッカーの中に引きずり込まれた。
直後、ロッカーの扉が閉まり、俺は中に閉じ込められる。慌てて出ようとするも、ロッカーの扉はいくら押してもビクともしなかった。
「嘘だろ……」
呆然と呟く俺の体を、見えない何かの手が撫で回す。その奇妙な感覚に、背筋にゾクゾクとしたものが走った。
「だ、誰か……いるのか?」
返事はなかった。しかし、声の代わりに二の腕にスーッと冷たい感触が。それだけで、もう十分だった。
「っ!!」
本当に、閉じ込められてしまった。ロッカーの中に。女生徒の霊と、2人っきりで。こんな、こんなの……!
「完っ全に……エロ漫画の展開じゃねぇか……!!」
俺はこれから、この中で一体どんなことをされてしまうのだろうか!? ハッ! 「出して」っていうのはもしかしてそういう……? やっべぇ、ドキドキしてきた!!
「ハァ、ハァ……」
興奮のあまり、思わず荒い息を吐く。やはり、こういうのは声を我慢した方がいいのだろうか? それが様式美というものなのだろうか? が、我慢できるかな?
次なる展開をワクドキして待つ俺だったが、いつまで待っても何も起こらない。先程まで触れていた謎の感触も消えてしまった。これは、まさか……
「なるほど、焦らしプレイというわけか。まずは自分でやってみせろというわけか。了解した」
完璧に理解した俺は、ズボンのベルトを緩め──
「うぉ!?」
──ようとしたところで、背後から思いっ切り突き飛ばされた。
気付けば教室の床が目の前に迫っており、慌てて手をついて激突を回避する。
「あっぶなぁ……」
ギリギリで間に合い、ほっと息を吐いたところで、背後のロッカーがバタンと閉まる音がした。
「え……おいおい、マジかよ」
ここまで来てまさかのお預けだと!?
慌ててロッカーを開こうとするも、やはりビクともしない。意地でも開けてなるものかという固い意志を感じる。
「そんな……」
女子と2人でロッカーに入るなんて展開、一生に一度あるかないかだというのに……何もなしで終わるというのか?
いや、まだだ。まだ希望を捨ててはならない。これは、そう……高度な焦らしプレイなのだ。お預けが長ければ長いほど、その後のご褒美はきっと素晴らしいものになるのだ!
「分かったぜ……よし、これから毎日通うからな。いつか、ご褒美をくれるって信じてるぜ?」
俺がそう言うと、ロッカーの中でガタンッという音がした。どうやら了承してくれたらしい。
それに満足し、俺は軽い足取りで教室を後にした。ひと夏の経験なんてものは俺には無縁のものだと思っていたが、そうでもなかったらしい。今年の夏休みは、素晴らしいものになりそうだ。
……しかし結局、その後夏休みが終わるまでそのロッカーが開くことはなかった。
そして夏休み明けには、『内側から叩かれるロッカー』の怪談は『毎晩ロッカーを叩く男子生徒』の怪談になっていた。
ヒドイ