慈愛
一方そのころ教会から迷宮につながる隠し通路では、神父であるピース・フリーデンにつづきただひたすらに前に歩き続ける子供たちその表情は疲労と不安と心配の色に染まっていた。
「ここまで来ればひとまず安全か。すこし休憩をとろう。」
ピースのその言葉を聞いて一行は足を止めるのだった。バタンと地面に崩れ落ちる子供たち。今までは気力でついてきたが立ち止まったことで急に力が抜けてしまったのだろう。それもそうだ。大人ですら困惑しているのだ。当然子供たちが状況を整理するのにまだまだ時間がかかるに決まっている。ピースは立ち膝になり子供たちに話しかける。
「みんな聞いてくれ。怖いのもわかる。不安なのもわかる。しかし、我々は歩み続けなければならない。それがお前さんたちを託された私の義務だ。だから頼む。お前さんたちの親のためにも今は私についてきてくれ。これから迷宮に入る。町がこんな状況なんだ。迷宮が襲われていてもなにも不思議じゃない。だから何があっても歩み続けてくれこれが私のただ一つの願いだ。」
「母ちゃんは死んじゃったの?」
そうソラが神父に投げかける。その言葉が周りの子供たちの表情を曇らせる。
「まだわからない。だが・・・・」
その沈黙が肯定を意味することぐらいいくら幼いソラでもわかってしまう。
「くぅっ。」
瞳に涙を浮かべまるで恨むかのようにピースを睨みつけるソラ。
「さぁさきを急ごうあまり悠長に話している時間はない」
そういいスッと立ち上がる。ソラ以外の子供たちは両親たちが覚悟の姿をしっかりとみていた。だから神父の言葉にうなずき続々と神父に再び続き歩き始めた。でもソラは・・・・。立ち上がれない。どんどん神父たちとの距離は開きおいていかれてしまった。ユニバース家に生まれ、いつもそばにいたのは母親であるメタナル・ユニバースだけであった。父親はソラが小さいころに宇宙飛行実験によって死んだときかされている。ソラ一人だけ思い入れが違うのだ。どんなときも優しい笑顔で笑いかけ勇気づけてくれた母親だったのだ。悲しくないわけがない。そんなソラに歩み寄る一人の同い年くらいの少女がいた。イブ・フローレスである。顔は端正に整っており、鮮やかな緑色の髪の毛のショートカットが印象的だ。瞳は髪の毛より濃い新緑の色をしたかわいらしい瞳だ。イブはソラのとなりの家に住んでいた。だからある程度ソラの家の事情はわかる。イブの両親が仕事で忙しい時はメタナルに預けられていたこともある。だから、言葉をかけることができるのはメタナル以外にはイブしかいないだろう。
「ソラ」
ソラは突然投げかけられた言葉に騒然としつつも顔を少し上げる。
「ソラが悲しいのはわかるよ。でも今は逃げなきゃ。」
「お前に何がわかるんだよ。」
突然ソラは声を荒らげる。その瞳には今にも流れ出しそうな涙が溜まっていた。それでもイブは話を続ける。
「わかるよ。ずっと隣で見てたんだよ。ソラのことをメタナルさんのことを。ずっと仲良しでうらやましいなってずっと思ってたよ。ソラは悲しいんだよね?でも今は逃げなきゃ。メタナルさんの覚悟が無駄になっちゃうよ。せっかく自分の命を懸けてまで私たちを逃がしてくれたんだから。ソラがこんなところで死んだらメタナルさんが悲しむよ。大丈夫。ソラはずっと私が見てるから。ね?」
イブはそういうと瞳に涙をためながらソラを優しく包み込むのだった。
ソラは驚いていた。ずっと一人だと思っていた。なのに自分を見ていてくれた人がこんなにも近くにいたのかと。少し心が温かくなった。
「わわかったよ。」
少し照れながらソラはそっけなくそういうのだった。
「うん!はやくピースさんに追いつこう。」
そう笑顔で立ち上がるのだった。