04
「姉上、ネガル。馬車の準備ができ次第、王都へと向かおう」
機械仕掛けの帝剣を引きずりながら馬車小屋から出てきたイシュは、外で待機していた二人に声を掛けた。
「ええ。わかったわ」
「かしこまりました。御者はお任せください」
シュガルは微笑み、ネガルは首を垂れた。
*―*―*―*
「じゅ、じゅじゅじゅ準備ができ――――んがぁあ!」
馬車小屋から馬を曳いて出てきた男が準備の完了を告げると、イシュがその腹に鋭く拳を叩きこんだ。男は情けない声と共に泡を吹いてその場に崩れた。
「よし。では姉上、ネガル。王都へと出発だ―――――あ?」
「どうかしたの? イシュ」
「どうかなされましたか?」
馬車へ乗り込もうとしていたイシュに対して、二人が口々に言う。
「ネガルよ。ココから王都まではいかほどかかる?」
馬車へとかけていた足を降ろしてネガルに問うた。
「遠目にも王都の外壁が見えません。なので、私の目算では半日以上はかかるかと」
ネガルは少しだけ背伸びをして遠くに目をやった。
「であろうな……。で、あれば出発前にこの中をどうにかせねばな」
イシュが気にしていたのは馬車の内装だった。
簡素ではあるが決して悪くない。しかし半日いるとなると話が変わってくる。つまり、彼女は内装が気に入らなかった。
「姉上、ネガルよ。もう少しだけ待ってくれ。やることが出来た」
その言葉にシュガルは小さく息を吐いた。
「イシュ。あまり感化されてはダメよ?」
妹がよくないものにその心を蝕まれていると彼女は感じていた。それは自分やネガルに対してもそうだった。
湖に浮かぶ城にいる以上、大いなる母の魔力による微量な魅了効果が常に付きまとう。それは人間であるイシュ達にはどうすることもできないものだった。
しかし、シュガルやネガル以上に、イシュはその心を魔王に蝕まれていた。
「………はい。わかって、おります。わかっておりますよ……姉上」
シュガルとネガルに背を向けて、その場を離れるイシュ。その背中に何かを言おうとネガルが口を開いたが、それはシュガルによって制止された。彼女の中で妹は、既に自分の知る妹ではなくなっていたのだ。
(きっと、それは、貴女にとっての初めてで…………ああ、本当に私は―――――――)




