08
「温もりは潰え、日常は崩終する。世界は立ち還り、人々は信仰を捨てた。我が心は母の為に、我が血潮は家族の為に、我が体は彼の者を屠る為に。転生者は解き放たれ、人々は彼の時を思い出す。狂喜せよ。今、原初は目覚める!」
それは魔術ではなかった。
天は割け、そこから一筋の蒼黒の光が咲和へと降り注いだ。
「貴様………貴様はぁぁぁぁぁぁあああああああ―――――――――――――――ッ!」
それは詠唱を必要とするスキル。
マルドゥクとムシュフシュは弾き飛ばされる。
咲和の体には降り注いだ蒼黒の光が纏わりついた。
「騒がしい。汝は誰だ?」
その声はサナの物だ。しかし、その言葉は咲和の物ではなかった。
「ん? もしや、汝がマルドゥクか? マルドゥクなのか?」
コテン、と首を傾げるサナ。
「知っているぞぉ……その声、そのふざけた仕草、その魔力ッ…………!」
「やはり、汝がマルドゥクか………にしては矮小よなぁ」
信じられないと言わんばかりに、腕を組む。
「あ、貴女は………貴女様は………」
マルドゥクと向き合っていたサナはその言葉に振り返る。そこには這って近づいてくるムシュフシュがいた。
「汝、ムシュフシュか? 久しいの。元気にしておったか?」
と駆け寄り、腰を折ってその頭を撫でた。
「ああ、ありがたき幸せ」
ムシュフシュはその手を取って、頬ずりをする。
「貴様ら! 私を無視するな!」
戦斧を杖代わりに、マルドゥクは立ち上がる。
「汝のような塵蟲に用は―――――ん? 汝、もしや抜かれておるな?」
「何を言っている……」
心底解せないと言わんばかりに、口角を歪めるマルドゥク。それに一人納得したように頷くサナ。
「やはりな。でなければ、彼方側に付くなんぞあり得ぬ。最も、奴のやりそうな手口ではあるがな」
「さっきから何を言っている!」
「なに、知らぬが仏と言うやつだ。おっと、これは咲和の世界の言葉だったな。ま、そんなことはよい――――――――――疾く、逝け」
パチン、と。指を鳴らした。
「ガァッ!」
叫び声と共にマルドゥクはその場に崩れ落ちる。
それもそのはずだ。突然、右脚の膝から下が消し飛んだのだから。常人であれば、激痛によるショックでそのまま死んでいてもおかしくない。




