01
死んでしまったはずの咲和はゆったりと瞼を持ち上げた。揺らめく炎が深い藍色の瞳に飛び込んでくる。気が付けば彼女は薄暗いホールのような場所に寝ていた。
「成功、なのか?」
低めのアルトボイスが耳に届いた。咲和は体を起こし、声のする方を見る。そこにはシンプルな漆黒のドレスを身に纏った長身の女性と、ボンテージのような危ういドレスを身に纏う、黄金色の髪の二人の少女がいた。二人の少女の両目は赤色の帯で覆われていた。一見して咲和のことが見えているようには見えない。
「「そのようね」」
重なったソプラノボイスが同じことを言う。
「おはようございます。ワタシはムシュマッヘと申します。気分はいかがですか? キングゥ様」
ムシュマッヘと名乗った低めのアルトボイスの言葉に咲和は、
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
と、頭を両腕で庇う。
「―――おい、これは本当に成功なのか? 明らかに生前の記憶が残っているじゃないか」
「そのようね」
「問題ないわ」
狼狽するムシュマッヘに対して、二つのソプラノボイスが抑揚なく返した。少女たちは腰を折り、それぞれ手を差し出した。
「「おはよう。そして、お久しぶり。我らが王、キングゥ。母様の唯一の子よ」」
咲和にとって意味の解らないその言葉は、彼女をより一層混乱させた。頭を庇う両腕の力はより強くなる。そんな様子を見た少女たちは互いに顔を見合わせて、小さく溜息を吐いた。
「私達は、ラフム」
「私達は、ラハム」
「「貴女の姉にあたるモノよ」」
二人はたったそれだけの自己紹介を終えて、自らの両手で咲和の両手を優しく包みこむ。咲和はそれを嫌だという様に払おうとするが、彼女たちがそれをさせてくれない。彼女たちの力で咲和は立ち上がらされる。
「「さぁ、貴女の真名を聞かせてくれない? キングゥはあくまでも我々が付けた呼び名だもの。貴女にも生前の名があるのでしょう?」」
ラフムとラハムは母が子に話しかけるかのように、ゆったりと咲和に話しかけた。そんな声色に咲和の混乱は多少ながら和らぐ。
「…………暁月、咲和といいます」
「「アキツキ・サナ。わかったわ。では、我々は貴女のことを「サナ」と呼ぶわ。それでいいかしら?」」
二人は一言一句ぶれることなく咲和に確認する。彼女は小さくそれに頷いた。未だに頭の中は混乱しているが、ラフムとラハムの優しさの含まれた声色に少しばかりか心が開きつつある。




