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【改稿版】十一の獣は魔王と共に  作者: 九重楓
5章 謁見

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14

「ええ。貴女を信じましょう、転生者「サナ」。ただ、私からも条件があります」

「んん………姉、上?」


 最悪のタイミングでイシュが目を覚ました。イシュがそのまま起き上がろうとした為、咲和は衝怒の絲剣イーラ・フィールムグラディウスを退けてしまう。



「国を明け渡す代わりに、私とイシュの命だけは保証してください。他の物はどうしてくれても構いません。国民を蹂躙しようが、我が国の技術を盗もうが好きにしてください」


 シュガルはイシュが目覚めたことも構うことなく言葉を紡いだ。


「姉、上? 何を仰っているのだ? 国を明け渡す? 国民を蹂躙? あたしにわかるように言ってください」


 咲和がいることに気が付かず、イシュはふらついた足取りでシュガルに歩み寄る。その声は皇帝としてモノではなく、妹としてのモノだった。


「そのままの意味ですよ。私と貴女が生き延びるために、私は国を売るのです」

「な、何を………姉上、母上の言葉をお忘れですか! 我ら皇族は誰よりも気高く、強くあり、民を、国を守ることこそが使命のはず! 仰っていることがどれだけ血迷ったことか、わかっているのですか!」


 懇願のような咆哮は空しく部屋に響く。その咆哮に咲和は拳を握ることしかできない。


「ええ、わかっているわ。でもね、イシュ――――」


 紡がれた言葉にイシュは崩れ落ちた。それは皇族たるシュガル・アッガシェルが口にしていい言葉ではなかった。そして、最もイシュが聞きたくない言葉でもあった。



「私はこんなガラクタ(くに)や見ず知らずの屑共(こくみん)なんかよりも、唯一の家族であり、私のことを愛しいと言ってくれた貴女のことが大切なの。貴女の為なら、私は国を売り民を売り、自身すら売ることができる。そして、貴女に罵られようが憎まれようが構わない。私も貴女のことが愛しいから」


 その言葉は、いつか咲和に向けられたものと似ている。大いなる母が愛しいと言った、それだけ理由で、咲和はラフムとラハムに愛しいと言われた。愛しい妹だと手を握ってもらった。そして咲和はそれを受け入れたのだ。


 しかし、イシュには受け入れることなんてできなかった。そもそも、できるはずがないのだ。皇帝になるべく教育を受けたイシュと、幽閉されていただけのシュガルでは価値観が違いすぎた。



 イシュは前皇帝である母からいかに国が尊く、国民とは庇護するべきものであるかを叩きこまれていた。皇帝でありながら国民たちのことを第一に考え、月に一度は町に下りて交流を交わしていた。そうすることで国民を身近に感じ、親しみを以て接することができるようになる。最終的には国民を家族と考え、行動することができるようになる、と。



 一方でシュガルは、()()()()()()()()()()()()()、国民とは隔絶されて生きてきた。元々はシュガルが皇帝の座に就くはずだったが、幼少期より体が弱く、盲目であった為に早々に継承権を失っていた。その上、皇家では()()()()()()()()()は、前皇帝から忌避されたのだ。そうして、自分の娘を手に掛けることのできなかった母によって、シュガルは城の最上層に幽閉された。幽閉されて以降は、妹であるイシュと、朝夕に食事を持ってくるメイドだけが唯一の話し相手であった。イシュとメイドだけには心を開いていたが、それが母の耳に入るとメイドはすぐに解雇された。そうして、シュガルの交友関係は断たれ、話し相手はイシュだけとなった。




 二人では価値観も、見ている世界も違いすぎたのだ。


「姉上…………あたしは………余は――――――」

「シュガル殿、条件を呑みましょう。今後ともよろしくお願いいたします」


 そこでようやく咲和の存在に気が付いたのか、振り向き、咲和を睨む。その目からは大粒の涙が溢れている。


「―――貴様……貴様が姉上を(たぶら)かしたのか! キングゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウ!」


 立ち上がり、踏み出した。



 パチンッ、と指が鳴る。



 部屋中の魔術陣が灯り、イシュは卵型の檻に一瞬だけ閉じ込められる。檻と光はすぐに消えてなくなり、イシュは足元から崩れるようにその場に伏した。


「貴女とは、いい関係でありたいわね」

「ええ、私もそう思っております」


 シュガルは笑み、咲和は目を伏せた。






*―*―*―*―*






「どうかしたの?」


 隣を歩く弟がわたしを見上げて言った。


「今、誰かが泣いたような……………」


 雑踏の中、わたしは塔のような城を仰ぎ見た。

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