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05
彼女を突き飛ばして父親の前に出たのは何故だったのか。
その答えが出る間もなく、父親の振り下ろした酒瓶が咲和の頭を砕いた。
砕かれた咲和の奥で、突き飛ばされた彼女の貌は闇色の感情で歪んでいた。
そうして、咲和の意識は死の泥の中へと落ちていった。
息もできず、音もなく、光もない。そんな世界へと落ちていく。感覚は次第に希薄になっていき、暁月咲和と言う存在が溶けていく。
そんな中、一筋の光が見えた。それは赤く、あたたかな光だ。光は徐々に近づいてくる。咲和は手を伸ばした。既に感覚は失われていたけれど、それでも精一杯に手を伸ばした。
彼女はその光を掴んだ。
「咲和。私の愛しき娘」
その言葉は母さんのものだった。
終わる――――――――――――――――はずだった。




