06
「魔力を廻せ! 全力で行くぞ!――――――此度、この戦場において余は無敗。敗走などありはしない。敗走などあり得ない、敗走など許されない。余の憤怒こそ絶対の刃である――――――皇帝率いる千歴の英霊」
床に突き刺した帝剣の柄を握り、一瞬で詠唱する。すると、イシュの体に灯っていた赤い魔術陣は消え、新たに青色の魔術陣が灯った。
「――――――――――――ッ!」
「うおぉ!」
咲和とギルタブリルは左右に跳び退いた。
二人のいた場所には帝剣を超える大剣が七本、深々と刺さっている。
「鎧か!」
見上げたギルタブリルが思わず溢した。
壁際に立っていたはずの鎧が大剣を振り下ろしていた。
「これも魔術ですか!」
「そうよ! その慧眼のまま余に迫れ! でなければ、ココからは生きて出られると思わぬことだ!」
(この人は強い………きっと、私よりも実戦経験は豊富だ……)
咲和をこれまで感じたことのない恐怖が支配する。足が震え、その震えが全身へと伝わる。目の間には自分のことを殺さんとする、イシュがいる。そのイシュは自分よりも遥かに実戦経験が豊富だ。しかもココは敵の本拠地。自分の味方はギルタブリルしかいない。
(………この人に勝つ?)
ふと、そんな疑問すら湧いた。
自分にイシュを倒すことが出来るのだろうか、と。
体の震えは止まらない。
「―――――!」
手を握られた。
「大丈夫。サナ様には家族がいる!」
ギルタブリルが咲和の手を両手で包み込んでいる。
「ギルタブリルさん………ありがとうございます」
小さく頷いて、ギルタブリルは手を放す。そして、咲和に背を向けた。その視線の先には七体の巨鎧がいる。
「こちらはあたしに任せろ。サナ様は皇帝に集中してくれていい」
「行きます!」
二人は同時に床を蹴った。
「奴だけで、余の皇帝率いる千歴の英霊が相手取れるものか!」
「彼女のなら問題ありません!」
衝怒の絲剣と機械仕掛けの帝剣とがぶつかり合う。
「あたしをなめるな!」
二人の後ろでギルタブリルが声を上げる。
ギルタブリルが蠍の尾を巨鎧の片脚に巻き付ける。
「ふん!」
そして、尾を引いた。バランスを崩された巨鎧はそのまま転倒する。巨鎧を中心に床に亀裂が走った。
残った巨鎧が、その手に握る大剣をギルタブリルへと振り下ろした。
「計算通りってやつだな」
巨鎧達の大剣に依る振り下ろしによって、床に入った亀裂は巨大な穴へと変貌する。当然、その中心にいたギルタブリルは落下する。その穴を作った巨鎧達も同じようにその穴に吸い込まれていく。
「ギルタブリルさん!」
その光景に思わず咲和は穴の方を見た。その隙にイシュは帝剣を振り抜いた。それを受け止めきれず、咲和は後退りをする。
「大丈夫、家族がいる!」
その言葉を最後にギルタブリルは穴へ落ちて見えなくなった。




