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【改稿版】十一の獣は魔王と共に  作者: 九重楓
第四部 24章 今こそ、「マホウ」を

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06

「今、世界を発つ」


 ティアマトとマホウツカイ(サナ)を取り囲む様に幾重もの魔術陣が出現する。

 頭の再生を果たした二頭一対の獣が二人を取り囲む魔術陣へと拳を振り下ろした。大地すら砕くであろう一撃だったが、魔術陣が砕けることはなく代わりに二頭一対の獣の腕が消し飛んだ。


「世界、発、つ?」


 抱き締められたマホウツカイ(サナ)の頭に大きな疑問符が浮かんだ。


(世界を発つ? どうやって? 発つって…………どこ(・・)()?)


「我が心、我が力、我が愛を捧ぐ」


 まるで愛の告白のような、詠唱のような何かを言祝ぐ。


「我が名は(ウェネフィカ)(・オリギナーレ)


 そう、彼女は魔女だ。魔術を生みだした、誰にも到達しえない魔術の祖。

 二頭一対の獣が魔術陣を殴り続ける。しかしそんなものがティアマトへ届くわけもなく、獣は咆哮する。


「我が名は全て(マーテル・)の母(オリギナーレ)


 そう、彼女は母だ。この世界全ての者の母であり、その全てを愛する者。


「我が名は原初(オリギナーレ)


 そう、彼女は原初だ。原界(ナンム)から生まれ、この世界の礎となった始まりの者。


「駆け抜けるは(過去)


 遠い過去、原界(ナンム)より生まれ落ちた者。(ムンドゥス・)(オリギナーレ)での子供たちとの尊き日々。半身(アプスー)の死、勇者(マルドゥク)たちの反逆。そして、初めてのキングゥ(暁月咲和)の死と神代(ティアマト)の終わり。


「過ぎ去るは尊き(明日)


 家族と過ごした短くも尊い日々。終わることのない、誰にも平等に訪れる明日。嬉しさも、痛みも、苦しさも、愛おしさもあった。しかし彼女(・・)には訪れることはなかった日々。


「辿り着くは迎えることなかった時間(希望)


 彼女たちが向かうのは、誰もが焦れた希望。誰かが望んだ物語の終着だ。


「私は、境界を超える」


 マホウツカイ(サナ)を抱き締めるティアマトの頭上と足元に魔術陣が出現する。抱き締められながらマホウツカイ(サナ)は見上げた。そして、魔術陣の先に在る光景を見た。


「あ―――――――――――――――イヤだぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」


 彼女の目に映ったのは、天を貫く鉄の塔の群れ。空を翔ける鉄の鳥。道を埋め尽くすほどの人々。

 思い出したくなかった、もう二度と見ることはないと思っていた営みたちだ。


 そして、被害者(アキツキ・サナ)にとっての地獄が在った。



「お前はココに居てはいけない」


 叫ぶマホウツカイ(サナ)の耳元でティアマトが囁く。それは彼女の心からの言葉だ。被害者(サナ)はこの世界に来たことによって、マホウツカイとなり今も尚自らを削っている。それがティアマトには耐えられないのだ。これ以上自分のせいで愛しい娘が傷つくことが。


「お前にぃい! 愛され続けたお前に何がわかる! 何も知らないくせに! 何も知らないお前が、パパと出会って(私の)からの短い時間(世界)を語るなぁあ!」


 抱き締められながらマホウツカイ(サナ)は叫ぶ。握り締められた両刃剣がその刀身を縮めた。ナイフのように縮められた両刃剣をティアマトの背中に突き立てる。何度も何度も、死んでいるはずのティアマトに突き立てるのだ。


「ああ、私はお前のことを何一つわかっていない。愛しい娘だと言いながらも、同じ時を過ごしてすらいない。だから、そんな私だからこそお前を救う。私が奪った暁月咲和(未来)をお前に過ごさせる為に」


 抱き締めながら、背中を両刃剣で突かれながら、それでもマホウツカイ(サナ)に囁く。


希望(ノーン・フィーニス)に到り、(・ナラッティオ・アト)尊きを(ウェルム・ノーン・)得る(スペース)



 最後の一節が詠まれた。



 そして、愛と希望の物語(ものがたり)は終わる。



「イヤだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!」



 マホウツカイ(サナ)が叫ぶ。悲痛な叫びが母の耳を劈く。しかし、それでも母は優しい笑みを湛えている。

 これで、愛しい人(この子)は救われる、と。



 魔術陣が二人を一瞬の内に通過し、二人は魔術陣と共にこの世界(・・・・)から消滅した。

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