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「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ。ティアマトォォォオオオオオオ、ティアマァァァァァァァァァアアアアアアアトッ!」
「異世界勇者」が叫びながら笑いながら、ティアマトへと駆ける。その狂気的な笑い声はティアマトの元に届いていた。
「「異世界勇者」ですねー。全く、恐ろしい声だこと」
狂気の笑い声にエンキがわざとらしく躰を震わせる。
「ウシュムガル、動けるか? もし動けるなら、姉妹たちを連れてこの場を離れろ」
ティアマトは未だへたり込むウシュムガルへと言葉を投げる。母の言葉に三女はボロボロの躰に鞭を打って立ち上がった。
「了、解! 」
ニカッと笑って、力強く地面を蹴った。
「エンキ、お前もこの場を離れろ」
「何を仰いますかー、お母様。わたしは貴女の終わりを見届ける為に、表舞台まで出て来てるんですよ」
エンキがティアマトの顔を覗き込みながら言う。
「ああ、そのようなことは承知の上だ。承知の上で、お前にはやってほしいことがある」
ティアマトは真っ直ぐに「異世界勇者」の声のする方を見つめて言う。その瞳にエンキが映ることはない。
「ふふふ。あくまでも自分本位なんですね、貴女は」
小さく笑ったエンキが踵を返す。その肩は小さく震えていた。彼女の肩の小さな震えが意味するところをティアマトは理解していた。彼女自身がそれを認めなくとも、母には伝わっていたのだ。
「…………すまない」
「いいですよ。これは貴女を惑わし、陥れたわたしへの罰のようなものですから」
その言葉を最後にエンリルは音もなく霧のように消えた。我が仔が消えたのを確認したティアマトは手を握り締めた。




