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【改稿版】十一の獣は魔王と共に  作者: 九重楓
第四部 23章 使いが終わりを齎す

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02

 蒼黒の光の柱にラハブとムシュマッヘは見覚えがあった。


 ソレは初めて勇者狩りの際、咲和の元へと降りていた蒼黒の光の柱だ。しかしその咲和は「トラウェル・モリス(この世界)」にはいない。ならば、蒼黒の光の柱の元には誰がいるのか、それがわからない家族ではない。


「母さん?」

「母、様?」


 そして、それがわからない「異世界勇者(サナ)」ではなかった。


「てぃ、あ、まと…………?」


 行方不明だったはずの原初の出現。それはこの場にいた、「トラウェル・モリス」で屈指の実力者が一様に動きを止める。それほどの出来事だ。


「いま、さら……………今更になって…………」


 「異世界勇者(サナ)」は拳を握り締める。躰に仄かに熱が籠る。誰よりもティアマトの出現に感情を昂らせたのだ。愛すべき家族を殺され、必ず復讐すると誓った相手の突然の登場だ。感情が動かないはずがない。

 たとえそれが、自らの殺すに足る力を持つ相手が目の前にいるとしても。

 十一の獣が最強(ラハブ)を前に「異世界勇者(サナ)」は踵を返す。一目散に愛する父の仇へと駆け出す。


「行かせるわけないじゃん!」


 「異世界勇者(サナ)」の目の前に、後ろにいたはずのラハブが落ちてきた。しかしそれを彼女は身を翻すことで避け、仇へと走る。そんなことをラハブが許すわけがなく、走り去ろうとする彼女の腕を取ってそのまま抱き寄せた。その姿はさながら恋人を抱き留めるかのようだ。


「もう少し遊ぼうよ! すぐに浮気なんて悲しいじゃん!」


 抱き留めたかと思うと肩を押した。そしてその小さな勢いのまま、「異世界勇者(サナ)」の顎を蹴り上げた。受け止めることの出来なかった彼女は仰け反り、躰ごと宙に浮く。


「まだまだ、遊び足りないんだよ!」


 宙に浮いた「異世界勇者(サナ)」の下に潜り込み、彼女の背中をさらに蹴り上げた。宙に浮いた状態での攻撃に為す術のない彼女は空高く舞い上がる。

 ラハブの攻撃を受けながらも、彼女の視線は蒼黒の光の柱へと注がれている。


「僕も嫉妬くらいするんだぜ?」


 空高く舞い上がった「異世界勇者(サナ)」の元へと跳び上がったラハブが、彼女の耳元で囁く。そして、無防備な彼女の腹へと渾身の拳を打ち込んだ。

 「異世界勇者(サナ)」の落下地点では、地面が砕け大規模なクレーターが完成する。土煙がクレーター内を覆い隠す。


「ほら、遊んでよぉお! 母さんばっかり見てないでさぁあ!」


 クレーターの淵に立ったラハブが咆哮する。その躰には依然として雷を纏っている。


「遊びは終わりですよ、最強さん」

「あ―――――――――――?」


 突如として目の前に現れた「異世界勇者(サナ)」にラハブは反応することが出来なかった。


「ッング―――――――――カハッ」


 一瞬にしてラハブは胸を貫かれた。「異世界勇者(サナ)」の手の中で彼女の心臓が鼓動している。


「ラハブ!」

「貴女もコレが無ければ再生には時間が掛かりますよね? 若しくは死んでしまうんでしょうか?」


 手の中で鼓動する心臓に力を籠める。

 心臓を奪われながらラハブは考える。

 何故急に「異世界勇者(サナ)」に心臓を奪われたのか。何故急に「異世界勇者(サナ)」は心臓を奪うことが出来たのか。

 確かに彼女はラハブの躰を破壊するだけの力を持っていた。現に、ラハブの腕を蹴り飛ばしているし、腹にも穴を開けた。


「まぁ、死んでくれるのならそれはそれでいいんですけど」


 それでもラハブ自身が「異世界勇者(サナ)」の動きに反応できず、心臓を奪われた理由にはなり得ない。


 何故なら、ラハブには「異世界勇者の(サナ)」の動きの全てが見えていたはずなのだから。攻撃を躱すことも受けることも彼女の思い通りのはずだった。

 彼女の発動した「崩壊せし我が枷(スキル)」がそれを可能にした。スキルの発動だけでも原初に並びうるステータスを獲得しているが、その上で普段であれば不可能な魔術さえも行使している。そんな彼女の反応速度を超え、心臓を奪い取ることなど原初であっても容易くはない。


 しかし、「異世界勇者(サナ)」はやってのけた。


「それでは、また」


 遂に「異世界勇者(サナ)」がラハブの心臓を握り潰した。心臓を握り潰されたラハブは瞳から光を失い、後ろへと倒れた。


「………」


 妹が事切れたことを受け入れるよりも早く、ムシュマッヘは「異世界勇者(サナ)」へと駆け出し、その頭にグラディウスを振り下ろす。


「邪魔ですよ」


 振り下ろされたグラディウスを片手で受け止めて、ムシュマッヘを睨む。彼女の感情は既に十一の獣の誰に対しても向けられておらず、その矛先には愛する父の仇(ティアマト)しかいない。

 だから、自身を殺すこともできず、時間稼ぎが精一杯のムシュマッヘ(弱者)には興味など無いのだ。


「たとえワタシがお前に敵わなくても、ワタシはお前を止めなければならない」


 グラディウスを受け止めて片手の塞がっている「異世界勇者(サナ)」へと尾を薙ぐ。その尾も受け止められる。これで両手が塞がった。この機を逃すムシュマッヘではなかった。彼女は自身のスキル「(ウェネーヌム・)(オケアノス)」によって、両掌から神話の体現者すら侵す腐蝕性の毒を発生させた。毒はグラディウスを伝って「異世界勇者(サナ)」へと流れて行く。

 「異世界勇者(サナ)」もその毒が自身を侵すことの出来る強力なものだと理解していた。しかし、グラディウスから手を離せば、その刃はそのまま彼女自身を襲うことになる。足払いをすれば、重心が歪んでグラディウスを押し込まれる。どのみち、今のままでは彼女に「毒海(スキル)」を避ける手段はない。


 それでも、「異世界勇者(サナ)」には関係がなかった(・・・・・・・)


「貴女の毒が、私を侵すに足るものだ言うことは理解しています。でも、ですね………もう、そんなことどうでもいいん――――――――――――です、よ?」




 「異世界勇者(サナ)」の中で何かが叫び声を上げた。

 ソレは「異世界勇者(サナ)」の勇者たる部分。それは五十ある「勇者(マルドゥク)」を冠する者たちの叫び。

 そして、「家族を失った者(アキツキ・サナ)」としての心からの叫びだった。





【いやだ! 誰も失いたくない! もう、誰も! それなのに!】


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