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【改稿版】十一の獣は魔王と共に  作者: 九重楓
第四部 22章 これこそが「終わり」

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04

「……………誰、だよ、お前………誰なんだよぉお!」


 砕かれた異形の大剣を振り下ろし吼えた屍の鎧の戦士の目には、焦れたはずの造形が映っていた。



 長身の女性。身の丈と変わらないほどに長い、煌めく白銀の髪は二つに結われている。額からは捻じれた蒼白の二本の角が上へと伸びている。腰からは長く、深い藍色の鱗で覆われた竜の尾。腕を覆う龍鱗は藍色から指先へ行くほど深紅へと溶けていた。純白のドレスに身を包むその姿は花嫁の様だ。

 全体的に白いソレの中で宝玉の様な深蒼(しんそう)の双眸は唯々美しかった。



 屍の鎧の戦士が焦れた、叡智の霧(ムンム)の似姿がそこに在った。



「私は、母。私は原初、ティアマトだ」

「な、んだよ…………それ」

「コレは、私の本来の姿。誰も見ることのなかった、原初の姿だ」


 そう、この白銀の女性こそが原初本来の姿。誰も見たことのない、原初のあるべき姿だ。そんな彼女と叡智の霧(ムンム)の姿がどうして似ているのか。それは彼女の半身であるアプスーの最初で最後の願いだったからだ。


 ティアマトは創造を、アプスーは統治を、それぞれ原界(ナンム)から権能として譲り受けている。統治を譲り受けたアプスーがティアマトの為す創造に口を出すことはなかった。しかし、ティアマトが初めて創造する叡智の霧(ムンム)に関しては違ったのだ。


 アプスーがティアマトの創造(しごと)に口を出した。

 彼は自分たちの姿を残しておきたかった。

 だから自分と半身であるティアマトの姿を模した「叡智の霧(ムンム)」を作ることを提言した。

 

 だからこその叡智の霧(ムンム)

 

 彼女の姿は、ティアマトとアプスーの二人の姿を模して造られた。白銀の髪も深蒼の瞳も、その全てが二人の原初に由来するものだったのだ。


「本来の…………じゃあ、じゃあ!」

「ああ、原初唯一の従僕(ムンム)は我らが原初の写し身だ」

「………ふざけるな」


 屍の鎧の戦士が拳を握り締める。砕けた異形の大剣が彼の手の中で悲鳴を上げる。しかし彼がその悲鳴に気が付くことはない。


「ふざけるなぁあ! あの方がお前の写し身だと! そんなこと認めない、認めるわけがない! 」


 悲鳴を上げつつも形を保っていた異形の大剣を両手で握り、振り上げた。


「エンキ諸共殺してやる! 俺達が、人類祖が原初を討つ!」


 異形の大剣を振り下ろす。異形の大剣とティアマトとの間に魔術陣が展開された。


「滅ぼし砕き壊し絶滅させる! 今ここに原初討伐を為さん! 叡智の霧は在らず、そ(オリギナーレ・)こには虚無が広がった(イムプグノ)!」


 異形の大剣が魔術陣を斬り裂く瞬間、魔術陣はその姿を二刀の異形の大剣へと変えた。魔術陣の変化した異形の大剣は左右からティアマトへと襲い掛かる。纏う熱で空間が歪む。

 個人による三方向からの同時攻撃。その全てが人類祖と言う神話の体現者に依る、生命を絶滅させるに足る一撃だ。



「お前たちのそんな思いさえも、私が連れて行こう」



 パチンッ。



 ティアマトは大きく指を鳴らした。

 彼女へと向けられた全ての異形の大剣が砕け散る。同時に屍の鎧の戦士の兜も砕け散った。中から出てきたのは黒鉄と黄金の髪を持つ赤い瞳の男性だ。

 屍の鎧の戦士は目には、砕け散った異形の大剣の先のティアマトがはっきりと映った。


「人類祖、アンシャル・キシャルよ。お前たちは先に行くがいい。時間は掛かろうが、私もいずれ行くだろう」





「――――グホッ………」

 

 口から大量の血を吐き出した屍の鎧の戦士はよろめき、後退る。終いには片膝を付いてティアマトを見上げた。彼女の右腕が真っ直ぐに伸びている。その先端からは大量の血が滴り落ちている。それが誰のものなのかなど、語る必要もない。

 屍の鎧の戦士の胸には大きな穴が開いていた。


「そ、そうか………俺達では………、傷、一つ―――グホッ……」


 胸の穴を抑えながら、血を吐き出しながらティアマトを睨む。彼女はそんな彼に憐憫を含んだ視線を向ける。


「…………これが、これこそ、が…………」


 遂に、屍の鎧の戦士は倒れる。その胸の穴から大量の血を流し、地面を侵していく。


「ああ、ムンム、様…………いま、我らは、…………貴女のもと………へ」


 こうして、人類祖はこと切れた。

 人類王に続き、人類祖までもが原初の手で討たれたのだ。





「ティアマト………ティアマトォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!」

 

 その家族が悲しまぬはずがない。


 ムシュマッヘとラハブの相手をしていたはずの「復讐者(サナ)」がボロボロと涙を流しながら咆哮した。

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