08
生命であれば死からは逃れられないはずの大爆発の中から、屍の鎧の戦士の声が響き渡った。
「それによぉお、自分の魔術で死ぬわけがないだろぉぉぉおおお?」
ゲラゲラと笑い声を上げる屍の鎧の戦士は、握った屍気纏う異形の大剣をウガルルムへと向けた。
焼かず融かす劫火を受けた屍の鎧は多少煤けただけで、傷一つ付いていなかった。
拳に纏った星の光は陰りを見せ、ウガルルムの顔を絶望が覆う。
「馬鹿で救いようのないお前はさぁあ」
絶望に沈むウガルルムの前に立ち、屍気纏う異形の大剣を振り上げる。鎧の下で三日月の笑みが浮かぶ。
「後悔しながら死ねやぁあ!」
屍気纏う異形の大剣は振り下ろされる。
それは抗えぬ死。
約束された絶望の形。
ウガルルムは顔を上げ、ただ迫りくる死を見つめる。
(ごめん……お姉ちゃん、ダメだった)
死まで刹那。
ウガルルムは終ぞ、その拳を解いた。
目の前の屍の鎧の戦士への呪詛も吐けぬまま、ただ自分の弱さを悔いた。
「---------遅くなった」
振り下ろされたはずの屍気纏う異形の大剣はウガルルムを割ることはなく、空中で制止している。
ウガルルムの琥珀色の瞳が濡れる。彼女の瞳には一人の少女の背中が映っていた。
煌めくほどに美しい白銀のツインテール。艶やかな漆黒のワンピースドレス。腰辺りからは一対の竜翼、棘の生えたしなやかな尾。四肢を含む身体の至るところを覆う美しい蒼銀の鱗。
「何故! 何故今になってお前がっ! ティアマァァァァァァァァアアアアアアアアトッ!」
屍気纏う異形の大剣とウガルルムの間には行方知らずだった、大いなる母が立っていた。
「今度は私がお前たちを護ろう」
屍の鎧の戦士の前に立ち塞がったティアマトは、その小さな躰でボロボロのウガルルムの盾となる。




