03
「あ、……あぁあ、ね、姉様……姉様ぁあ」
砦から降りてきたクサリクが斬り裂かれたラハブの躰に縋り付く。最も愛する姉の躰を凌辱された彼女には、治癒を施すと言った行動をとれるほどの理性が残っていない。
「…く……り、く」
上半身が左右半分に裂かれているラハブは、口から血を溢しながらも妹の名を呼ぶ。
そんな決死の呼び掛けにクサリクは理性を取り戻し、ラハブの口に耳を当てる。彼女が何を欲しているのか、聞き逃すことが無いように。
「………こっち、向けよ」
ラハブはクサリクの耳元でそう言うと、瀕死とは思えない力で彼女の唇を奪った。
妹の口内を侵し、その体液を呑む。
耳劈く異音が響く。
それは「偽・十一の獣」に躰を穿たれた際に聞いたあの音だ。
未だ彼女は妹を侵す。
「ップハァ。ありがと、やっぱり君のがうまいな」
親指の腹で垂れた涎をふき取る。その貌は少し紅潮していて、普段のラハブからは想像できない艶かしさがある。そんな彼女の貌にクサリクも紅潮した顔で静かに鼻血を垂らした。
「よいしょっと!」
いつの間にか異音は止み、彼女の躰は元通りだ。両肩を回し、手を開いて閉じる。躰には薄く電気を纏っている。
「クサリク、今なら僕でも魔術が使えそうだ。魔術陣の彫られた何かある?」
「……………え、あ、はい! コチラを」
正気に戻り、外套で鼻血をふき取って、内ポケットから魔術陣の彫られた宝石の入った麻袋を渡す。
「いつも持ち歩いてんの?」
「はい。人間共に必要かと思いました」
復興支援の際、人間の多くが魔術が使えない現状を改善しようと、クサリクが一人で多くに人間たちに魔術を押していた。その授業の際に使うものが、魔術陣の彫られた宝石だった。
「コレ、何が使える?」
「弱い雷撃と短時間の身体強化です」
雷撃は帝国の電気製品を動かす為に、身体強化は復興の際に必要だった。
「中々お誂え向きじゃないか! 全部使っちゃうかもだから、許してね」
麻袋を握り締めてラハブは地を蹴った。その後には帯電する空気が残った。
「ご武運」




