02
「させるわけないだろう!」
ラハブに向けられた両腕を、ムシュマッヘが断ち切った。その手には普段手にすることのないグラディウスが握られていた。
しかし「劫火」は既に「サナ」の手を離れている。彼女の腕を断ったところで消え去るはずがない。
【駆け抜けろ! 天駆けの獣!】
【喰い蝕め! 神蝕!】
その声と共に「劫火」を打ち砕いたのは、月影の道標―――燕尾服にハットという出で立ちの長身で金髪の女性と、獣に敗走などありはしない――――白銀の鎧を纏い獣の耳をピンと立てた小柄な少女、だった。
「誰です?」
【嬢ちゃん……マジかよ】
【サナ様? どういうこと? パラわかんないんだけど】
二人は目の前で首を傾げる「サナ」を見て困惑する。
クサリクが召喚してそのままここまで飛んできた二人には情報の共有がなされてなかった。
「貴女達は召喚獣ですね? 初めまして、私は「異世界勇者」。マルドゥクです」
スカートを持ち上げようとして、自身の腕がないことに気が付く。すると、アハハと笑って、小さくお辞儀だけをした。
【あー、そう言うことかよ】
【こんなことって……】
二人の手から力が抜けていく。目の前にいる「サナ」は自分たちの仕える者、愛した人の尊き人なのだ。そのような者を今から討たなければならない事実に、彼女たちの戦意は削がれていく。
二人の獣の戦意がそがれていく中で、「サナ」は断たれた両腕に魔術陣を展開する。魔術陣は光を伴い、神経を逆撫でる異音と共に両腕を再生させる。
「邪魔だ!」
「邪魔だよ!」
「アハッ、容赦がないですね」
呆然とする二人の獣を押し退けて、ムシュマッヘはグラディウスで斬りかかり、ラハブは幾本もの太い触手を伸ばした。




