09
二日後。侵攻の日。
咲和を含めた十三名は、玉座の間に集まっていた。
二人の姉と十一の獣を前に、咲和は深呼吸をし、口を開いた。
「これから、私達は「ウェールス・ムンドゥス」へ侵攻します。
私が召喚されて幾百年。長い時が経ち、その間、私たちは守りに徹してきました。それも私の無知と無力によるものです。ですが、それも今日この時を以て終わります。
皆の協力の下、私は力を手にすることができました。今の私にとって、人類など敵ではありません。それは皆とて、同じことだと思います。誰もが人類――――いや、塵蟲どもなんかに後れを取るわけがない。だって、母さんが生んだ、私の尊い家族ですから。
でも、皆のような、尊くて、かけがえのない者の為であっても、私は戦争なんて嫌いです。
戦いが嫌い。
争いが嫌い。
ありとあらゆる戦闘行為が嫌いです。
誰かが殺されるのなんて見たくない。
誰かの死にざまなんて見たくない。
誰かの腕が吹き飛ぶのなんて見たくない。
誰かの脚が消し飛ぶのなんて見たくない。
誰かの臓腑がぶちまけられるのを見たくなんてない。
誰かの頭を割りたくなんてない。
誰かの脳漿を踏みしめたくなんてない。
誰かの返り血を浴びたくなんてない。
誰かの体を二つに割きたくなんてない
誰かの生活を侵したくなんてない。
誰かの尊厳を踏みにじりたくなんてない。
誰かの家族を殺したくなんてない。
誰かの守る者を冒したくなんてない。
誰かの愛する者を蹂躙したくなんてない。
だって、そんなことを私がされたら嫌だから。
でも―――やられたのならば、やり返さなければなりません。
過去、私が経験することのなかった神話の時代。皆はココに追いやられ、母さんはその体を割かれて世界の礎とされました。それを見てきた皆はわかっていると思います。話に聞いただけの私ですら思ったのだから。
そんなこと、許していいはずがない。黙って見過ごしていいはずがない。
ならば、報復するしかない。
だから、私達は「ウェールス・ムンドゥス」へと侵攻します。
そしてそこに住む者たちにとっての災厄となりましょう。
誰かを殺しましょう。
誰かの死にざまを見届けましょう。
誰かの腕を吹き飛ばしましょう。
誰かの脚を消し飛ばしましょう。
誰かの臓腑をぶちまけましょう。
誰かの脳漿を踏みしめましょう。
誰かの返り血を浴びましょう。
誰かの体を二つに割きましょう。
誰かの生活を侵しましょう。
誰かの尊厳を踏みにじりましょう。
誰かの家族を殺しましょう。
誰かの守る者を冒しましょう。
誰かの愛する者を蹂躙しましょう。
そうして、塵蟲どもにわからせてやりましょう。貴様らが誰を殺したのかを。誰の上に生活しているのかを。
さぁ、十一の獣たち、私の尊い家族たち。私と共に来てください。
貴女たちは何を望みますか?
塵蟲ども消えた世界を望みますか?
母さんの為の安然の世界を望みますか?」
『大いなる母の為の世界を!』
「わかりました。ならば蹂躙です!
この常夜の世界で永劫の時を耐え続けてきた私達に必要なのは塵蟲どもの殲滅です!
塵蟲ども一匹残らず駆逐しましょう!
ココに誓います。
我ら大いなる母「ティアマト」より生まれし家族たちが「トラウェル・モリス」を支配することを。
「ウェールス・ムンドゥス」を滅ぼし、我らが大いなる母の仇を討ちましょう!
わからせてあげましょう、人類に生き残る価値などないと! 我らが母の大いなる力を!
我らが母に栄光あれ!」
「我らが母に栄光あれ!」
咲和の演説は終わり、十一の獣は拳を突き上げた。
こうして、咲和は一人の少女から、十一の獣の指揮者である魔王へと昇華した。
世界を砕き、人類史を終わらせる魔王はここに誕生した。




