03
それから私は毎日のように図書館に通った。
彼女との勉強は本当に楽しかった。
神話のこと、大学での授業のこと、見たテレビのこと、読んだ雑誌に載っていたこと、彼女自身のこと。どれもが私にとっては新鮮なものだった。誰かと何かする、誰かと話をする。その中に私に対する嘲笑が一切ない。それだけで日常が新鮮さと楽しさに満ちた。
苦痛もなく、恐怖もない時間。それだけで、私は――。
しかし、そんな時間にも終わりはやってくる。
夏休みの最終日。
「いやぁ、夏休みも終わっちゃうね。宿題は済んだかな?」
いつもと変わらない調子で聞いてくる。
「はい」
私もできる限りいつもの調子で答えた。
「明日からは学校かぁ。私も中学の頃は三十一日が憂鬱だったなぁ。学校嫌いだったしね」
「え?」
私は彼女の言葉に思わず溢した。
「あれ?私変なこと言った?」
自分の言葉に変なところはなかったと言わんばかりに彼女は首を傾げる。確かに彼女の言葉に変なところはなかった。しかし私は疑問に思ったのだ。
「あ、え、え…………学校、嫌い、って」
彼女が学校を嫌いだとは思わなかった。むしろ、
「それ? 嫌いだったよ? だって勉強嫌いだもん」
「好きだと……」
そう思っていた。
「嫌い嫌い、嫌いだよ。勉強嫌いだし運動得意じゃないし友達いなかったしね。まぁ、高校行って友達出来たからよかったけどね」
友達がいなかった? 貴女に?
「友達……」
「ん?」
「私も………友達、できますか?」
それは私の声だ。
でも、それは本当に私の言葉だったのだろうか。
本当に友達なんてほしかったのだろうか。
私が欲しかったのは、本当は―――――。
「出来るよ。私にだってできたんだから。君みたいな良い子には絶対にできるよ。なんなら、すぐに彼氏だってできるかも。そうなったら私も頑張らなきゃなぁ。クリスマスまでには絶対にかの―――いやいや、彼氏を捕まえて見せる! なんてね」
そこで彼女は、私の皮脂とフケで汚れた頭をぐしゃぐしゃと荒っぽく撫でた。それは行為こそ荒っぽいが悪意の一切ないものだった。
下げた視界の中に、パラパラと降ってくるフケが私を惨めにする。良い子なんかじゃない。友達なんてできるはずがない。
「冗談はさておいて、大丈夫です。君なら良い友達ができます。君は優しい。誰にでも優しくできる、そんな子です。私が保証します。君なら私だって安心できる」
優しさとは別の感情の乗った笑みで、今度は柔らかく私の頬を撫でた。頬に伝わる温かさに泣きそうになる。零れそうな涙をこらえる。
「あ……ありがとう、ございます」
「礼なんていらないよ。よし、今日はもう帰ろうか。明日からは学校だ。がんばろうー」
彼女は元気よく言った。私はそんな彼女のことをずっと近くで見ていたいと思った。




