05
「そう。仕方ないですね。だから貴女はずぅーっと、ココで泣いていていいんですよ。わたしの腕の中で、何も知らず、何も教えられず、何もわからぬまま、愛しき娘の残した世界がどうなろうとも。そのままずぅーっと、泣いたまま心を閉じ続けていいんです」
涙は止まらずボロボロと零れ続ける。ティアマトの思考が徐々に闇に覆い隠されていく。何も知らず、何も教えられず、何もわからぬ、そんな愚かな女になっていく。
ティアマトの力が徐々に抜けていき、立っていることすらままならなくなる。エンキはそんな彼女の腰に手を回し、自身に抱き寄せる。
「そう、何も考えず、ただわたしの腕の中で泣き続けてくださいな。そうすれば、誰も貴女を責めないんです。誰も貴女を追い立てない。愛しき娘の残した世界はきっと誰かがどうにかしてくれる。十一の獣たちが、ラフムとラハムが、残った新人類たちが。愛しき娘の残した世界を存続させてくれます。きっと」
三日月に割けた笑顔がエンキの貌には張り付いている。それがどれほど醜悪で、どれほど悍ましいかを、きっと彼女自身わかっているのだろう。わかっていてなお、彼女はその笑みを止められない。
だって、ようやく、愛する人がその腕の中に落ちてきたのだから。
「そう、そのまま、泣いたまま、幼子のよ――――――ッ痛ァア!」
しかし、そんなエンキの思惑も突然の攻撃で終わりを迎えた。




