01
「ん、……んん」
「目を覚ましましたね」
ソファの上で目を覚ましたティアマトが居たのは、見知らぬ場所だった。視線を動かすと、椅子に腰かけた人物が彼女のへ笑みを向けている。
艶やかな黒いロングストレートヘア。鮮血の様な美しい赤色の瞳。身に纏う奉仕服には皴一つない。
「お前は……エンキ―――ん!」
起き上がると、強烈な頭痛に頭を押さえる。
奉仕服の女性は椅子から立ち上がり、ティアマトにマグカップを差し出した。
「急に起き上がるからです。ほら、コレを呑んで下さいな」
差し出されたマグカップには紅茶が注がれていた。立ち昇る香りに鼻腔をくすぐられる。
「すまないな。して、ココはどこだ? そしてなぜお前が居る? エンキよ」
目の前の女性こそ、魔術王エンキ。大いなる母の唯一の魔術の弟子であり、大いなる父殺害の首謀者だ。
「ココはわたしの家です。わたしだって死んでないんですから、別にいても構わないでしょう? それとも、お母様はわたしが死んでいた方がよかったとでも言うんですか? もしそうならエンキは悲しさに打ちひしがれるでしょう」
涙まで流してエンキは言う。
「そんなつもりではない。純粋に疑問に思ったのだ。お前はあの時突如として姿を消した。そして今までその姿を現さなかったからな。行方不明だった弟子が突然目の前に居れば誰でも驚くだろう?」
ティアマトは彼女の涙が嘘であることは理解していた。それでも彼女は弟子であり、我が仔であるエンキの涙を無視できなかった。
「もう、嘘ですよー。女の涙をそう易々と信じちゃだめですよ?」
指の腹で涙を拭い、エンキは二ヒヒ、と笑う。そんな彼女の貌にティアマトは、むー、と頬を膨らませてみせた。




