10
「「おい、異世界勇者」」
ニンティの消えた「エ・テメ・アン・キ」跡地でアンシャルとキシャルが座り込む「サナ」に声を掛ける。彼女はニンティに手も足も出なかったことを気にして、二人に声が聞こえなかった。
「「おい! 異世界勇者!」」
「…………はい」
二人がガツガツと歩み寄って初めて「サナ」は彼らに呼ばれていることに気が付いた。渋々と言った風に顔を上げると、すぐ目の前に二人の顔があった。
「「異世界勇者。俺達は元々、お前たちが何をしようが傍観者に徹するつもりでいた。しかし、エンキが出て来たからには、俺達もそんなこと言ってられなくなった」」
目を丸くして二人の顔を見上げる「サナ」に、二人はさらに続ける。
「「俺達にも、愛しい人がいた。しかしその人には既に愛しい人がいたんだ。もちろん俺達じゃない。でもそれでよかった。あの人が幸せであるならば、俺達はそれだけでよかった。しかしそれもある日突然終わった。当時の俺達は仕方がないと受け入れることが出来た。旧人類が皆一様にそう言うのだから、俺達がそれに答えるのは当然だと思ったんだ」」
そこで二人は言葉を一度切る。二人を見上げる「サナ」は静かに見つめ、続きを促す。
小さく息を吐いて、二人は言葉を続けた。
「「しかし、先のエンキの言葉で受け入れる必要などなかったと分かった。そして異世界勇者、お前の言葉で悟った。やられたならば、やり返すしかないと」」
二人は片手で優しく「サナ」の頭に触れる。
「「だから――――――人類祖の名において、異世界勇者を祝福する。誰でもない、ただ一人の為に。二人、あの故郷で醜悪な願いの為に。二人、あの故郷で彼の時を思う――――」」
二人の躰に黄金色の光の線が走る。それ自体が魔術陣の様だ。
何より、その詠唱は誰も見たことのないはずの、「原界」の魔術に酷似している。
「「今ここに、転生者は解き放たれ破界を為す!」」
最後の一節が詠まれ魔術は完成した。




