05
「違う私はやってない私のせいじゃない私は殺してない私は殺してない殺してない殺してない」
耳を塞ぎ、しゃがみ込んだまま立ち上がることもなく、ブツブツと呟き続ける。自らの心が死ぬことないように必死に自分を肯定しようとする。
「「あぁあん? お前が殺したんだよ、お前の愛しの娘をなぁああああ!」」
塞がれた耳元で心壊す言葉は叫ぶ。
「………アンシャルさん、キシャルさん。どいてください」
そんなアンシャルとキシャルの言葉を止めたのは、エンリルの手を握っていた「サナ」だった。
「「あ? 何だよ異世界勇者。今いいとこなんだ、邪魔すんじゃ―――」」
「サナ」へと振り向いたアンシャルとキシャルは固まる。視線の先にいた者が「異世界勇者」である確証を持てなくなったからだ。
「どけって言ったんです」
声色は何一つ変わっていない。
その顔に張り付いているのは笑顔だ。
泣き腫れた目元、涙の流れた痕はそのままでアンシャルとキシャルに笑顔を向ける。しかしその貌は笑顔と呼ぶには余りにも恐怖を駆り立てるものだった。
そんな笑顔の「サナ」に何も言えなくなった二人は、ティアマトの前を開ける。
未だ耳を塞ぐティアマトの前に立った、「サナ」は口を開いた。
「ティアマト、見上げなさい」
「知らなかったそんな魔術だなんて知らなかった私は悪くない私は殺してない私のせいじゃない」
「見ろって言ってるんです!」
力強く足を踏み鳴らした。あまりの衝撃に地面が揺れたと錯覚出来るほどだ。そんな衝撃でティアマトはようやく顔を上げた。
視線の先には恐怖駆り立てる笑顔があった。その貌にティアマトは目を見開いて恐怖に震える。
「貴女が殺した顔をがココにありますよ。よぉぉおく、見てください。貴女の愛しい「暁月咲和」の顔を、貴女が殺した「暁月咲和」の顔をよぉぉおく、見るんです」
腰を折って、ティアマトの顔を両側から手で押さえて固定した。じー、っとティアマト眼を合わせる。しかし次第にティアマトの視線が泳いでいく。何かを言おうと口が動くが言葉が出ない。
ティアマトの視線が泳ぎ始め口が動き始めると、「サナ」はその口を自分の口で塞いだ。
「ん、んん!」
ティアマトの口内を侵すように舌を絡める。彼女の顔が紅く染まる。
「―――っぷは、愛しい人とのキスはどうですか? 嬉しいですか? 気持ちいですか? 貴女の殺した暁月咲和とキスできた気分はどうですか? 愚かな女!」
袖で口元を乱暴に拭うと、立ち上がりティアマトを見下ろしながら言った。




