04
「…………らない」
「「えー? なんだってー?」」
完全棒読みがティアマトを煽る。
「そんなこと知らない! 知らない! 対象者を選別? 運命に干渉? そんなの私は知らない!」
吠えるように叫ぶティアマトの声が「エ・テメ・アン・キ」跡に響き渡る。それは子供の癇癪の様だ。
「お前に無知が許されるわけないだろう?」
「無知だからと許されるわけがないだろう?」
道化じみた動きも声色もなくなり、機械じみた人間味のない平坦な声がティアマトを糾弾する。
「お前が四度も暁月咲和を殺した」
「お前が四度も暁月咲和の未来を奪った」
「私じゃない! 私は呼んだだけ! 殺してなんかない!」
両手で耳を塞いでしゃがみ込む。
「「お前が二度殺して呼んで、お前がお前の為に二度死なせたんだよ」」
しゃがみ込んだティアマトの耳に左右から近づいて、囁くように。
「「暁月咲和はお前に二度呼ばれ、暁月咲和はお前の為に二度も死んだんだ」」
耳を覆う手の力が緩むことはない。
「「お前を護る為に、無謀にも全盛期の勇者に挑み死んだ。お前の生きる世界を残す為に、無謀にも魔力の太陽と化した叡智の霧に挑み死んだんだよ」」
二人は顔を上げ、天を仰いで、イヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ、と大きく笑い声をあげた。
「「お前が、暁月咲和を殺したんだ! あーあ、暁月咲和はどんな気分だったんだろうなぁあ。未来を奪われてぇえ、お前の魔力で魅了されてぇえ、怨みを抱くことさえ許されないまま懐柔されてぇえ、悔しいなぁあ、悲しいなぁあ、哀れで仕方がないねぇえ」」
神経を逆撫でする笑い声は続く。




