03
「突然ですが、私達は「ウェールス・ムンドゥス」へと侵攻を開始します」
咲和の発言に集められた十一の獣は動揺する。ラフムとラハム同様に、誰もが咲和の口からその言葉を聞くとは思っていなかったのだ。誰もが、咲和のことを自らの王だと分かっていても、どこかで幼い少女だと思っていたから。どこかで、妹の様に感じていたから。
「では、えーっと………まず、「ウェールス・ムンドゥス」の状況を確認します。バシュムさん、お願いできますか?」
扉から最も近い位置に座った白面の少女へ声を掛けた。
十一の獣が十女、バシュム。黒いロングストレートの髪に、小さな二本の角が生えている。基本的に白面を被っている為、表情は分かりづらい。真っ黒な迷彩服のような出で立ち。服装の為に体格は分かりづらいが、身長は百七十近い。
バシュムは城にいることは少なく、「ウェールス・ムンドゥス」へと赴いて諜報活動を主にしている。
「御意」
短く返事をし立ち上がり、胸ポケットから魔術陣の彫られた真っ赤な水晶を取り出す。
「あ、すみません、状況説明の前に面を外してもらってもいいですか? 顔を見てお話が聞きたいです」
「……………………御意」
少しの間があって、バシュムは白面を外す。中からは、年若い少女の顔が現れた。琥珀色の瞳の釣り目に白い肌、薄桃色の唇。少し赤くなった頬。その視線は机へと落とされていた。
「ありがとうございます。相変わらず可愛らしいですね。では、お願いします」
「………もったいなきお言葉」
羞恥心を隠すための堅苦しい言葉に、苦笑いを返す咲和。十一の獣の中でも、バシュムはかなりの恥ずかしがり屋だった。
「汝に残された記憶の海――――混ざり、沌がり、己が体を満たすがいい。ココに母なる海の顕現を―――――――記憶の顕現」
バシュムの手の中の真っ赤な水晶は淡く光始め、手を離れて机の真ん中で空中に停止する。
咲和がその様子を訝しげに見つめていると、何の前触れもなく、水晶から幾枚もの光の板が飛び出した。そして、そこにはココとは別のどこかの風景が映されている。多数の人間同士が争っている。片方は鎧を着こみ片手に剣を片手に盾。もう一方は、鎧に比べれば軽装な迷彩服を着て、その手には銃を構えている。それはどこかの戦争の風景を映し出していた。
つまり、水晶から飛び出した光の板は、どこかと中継を繋げているスクリーンのようだ。
水晶が無事起動したのを確認したバシュムは説明を始める。




