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「鏖殺する。お前も、エンリルも、アンシャルとキシャルも……「サナ」も! 愛しき娘の残した世界を砕こうと画策する者すべてを!」
吠える。
それは獣の咆哮に他ならない。
しかし、それはただの獣の咆哮ではない。
何故なら、彼女は「大いなる竜」なのだから。
クレーターに横たわるテューポーンを踏み付け、掌を向ける。彼女らの間に魔術陣が出現する。
「殺す」
魔術陣が姿を変える。それは誰もが知る魔術、「妬災の蛇焔」に他ならない。しかし、それは「妬災の蛇焔」ではない。激昂したティアマトの常軌を逸した魔力量で変質した特異魔術だった。
魔術陣自体が変化し、妬災の蛇焔を形成した。
【魔術と呼ぶことすら烏滸がましい】
テューポーンは尾でティアマトを投げ飛ばし、妬災の蛇焔から逃れる。
投げ飛ばされたティアマトは空中で体勢を変え、逃げたテューポーンに躰を向ける。そして、今度は片手を彼女へと向けた。
ティアマトの眼の前に幾重もの魔術陣が出現する。
「世界を呑むは我が躰」
一番近い魔術陣をティアマトが指で弾いた。するとそれから一刀の刃が伸びた。その刃幾重もの魔術陣を突き抜ける度に加速していき、終ぞ光をも超えた。光を超える速度は空気の壁を悠々と破壊し、その衝撃が地下空間全体を揺らす。
光速を超えた刃をテューポーンが避けることが出来るわけもなく、星さえ穿つだろう一撃をその身に受けた。熱と衝撃で彼女の躰は爆散する。
「次は………………上か」
ティアマトは空中で静止したまま、天井を見上げた。




