02
それは昨晩のことだった。
咲和はラフムとラハムの部屋を訪れていた。
「どうしたの?」
「眠れないの?」
二人は口々に咲和を気に掛ける。
「いえ…………えっと、あ、あの………少し相談があって」
ピッタリとくっついてベッドに座る二人に俯きがちに言う。
二人は顔を見合わせて、間を開けてぽんぽんとそこを叩いた。
「「いいわよ、聞かせて」」
「ありがとうございます」
咲和は叩かれた場所、二人の間に礼を言って座った。
「「それで、どうしたの?」」
「えっと………私にも力がついてきました」
咲和は確かに力を付けていた。先の初陣でも怪我も一切なく三人の人間を屠り、魔術も問題なく扱うことができていた。その後やって来た人間たちも問題なく屠ることが出来ていた。人間相手になら後れを取ることはまずないだろう。
「「そうね。確かに貴女は十分な力をつけたわ」」
「そこで、「ウェールス・ムンドゥス」へ侵攻をしようと思っています」
「「え?」」
それは、二人にとって聞き間違いかと思うほどのことだった。
確かに「ウェールス・ムンドゥス」への侵攻はラフムとラハムや十一の獣にとって悲願達成の為に必要不可欠だ。
しかし、それは彼女たちが言い出すことであって、咲和が言い出すとは思っていなかったのだ。
咲和が自分たちと同じ感情を人類に抱いていることはわかっていた二人だが、殺しや戦闘に対してストレスと恐怖を抱いていることはわかっていた。だから、咲和が「ウェールス・ムンドゥス」へ侵攻しようと言い出すとは考えられなかったのだ。
「ですが、私一人では絶対に無理です……。力がついたと言っても、まだ姉さんや皆よりは弱いでしょう。だから、私ひとりじゃなくて、皆でなら、できると思うんです………。正直、人を殺したり、ましてや世界を殺すなんて、嫌と思うこともあります。でも、それが皆の為で、母さんの敵討ちになるというなら、そんな軟なこと言っていられません」
咲和の瞳には確かに強い決意の色があった。二人はそんな咲和の瞳を見て何も言えなくなった。
「姉さん……私に協力してくれませんか?」
決意の色は失われ、そこには懇願を示す色が灯る。姉さんたちの協力がなくては私は何もできません。と、言わんばかりの不安すら宿す色だった。
「「………ええ、協力するわ。私達にできることがあれば何でも言いなさい。貴女の願いは、私達の願い。そして、「ウェールス・ムンドゥス」への侵攻は我々の悲願なのだから」」
「ありがとう、ございます」
咲和は二人の手を取って、感謝を伝えるようにぎゅっと握る。それに二人も咲和の背中に腕を回して抱きしめることで応えた。




