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「あいつは悲しそうな素振りなんて見せてない気がするけど……確かにムシュマッヘ様とかには何かしてあげたい、かな」
フォルウィトゥスの声に一番に反応したのは、ラハブが攫ってきた灰色の髪の町娘――モーメン・トリティクスだった。彼女は攫われた女性の中で唯一自らに仕える獣に対して砕けた調子を貫いている。そしてそれを主であるラハブも容認している。
「私もバシュム様に何かしてあげたいです」
モーメンの言葉に返したのは、バシュムの攫ってきたレメウェヌス・ピルトゥスだった。
金髪のストレートロングヘアで翡翠色の眼を持つ、とある事情で子供とは離れ離れで暮らしていた元シングルマザーだ。首から常に蛇のチャームのネックレスを下げている。
「バシュム様はレメさんが何あげても喜んでくれそうですよね。あーあ、良いなぁ。あいつは何やっても喜んでくれる気がしない」
ラハブに対して悪態をつくモーメンにレメウェヌスは困ったように眉をハノ字に傾ける。




