05
ティアマトは独り、法国「エ・テメン・アン・キ」の跡地に来ていた。
そこには赤いカーネーションが咲き誇り、静かに風に揺れていた。そんなカーネーションの絨毯にティアマトは躰を預けた。
そこで考える。
あの断罪暴動は誰が首謀者であろうと許されるはずはない。
しかし、それでも、「トラウェル・モリス」は咲和が残した尊きのもので、「トラウェル・モリス」に住む者たちもまた、尊き者のはずだから。
誰であっても、その営みを砕くことは許されない。
「トラウェル・モリス」を救った咲和でさえ許されなかったのだ、ならば誰であっても許されるわけがない。
世界の礎となった、大いなる原初であっても。
「咲和…………人類はどこまでも愚かだ。何故地獄を為すようなことが出来るのだ……。同じ種族に対して………自らの隣人に対して………」
手を伸ばす。
いなくなってしまった愛しき人を思い、手を伸ばす。
しかし、その手を取る者は居らず、どこまでも広がる至高の蒼穹のみがそこにあった。
「何故、こんな世界の為にお前が…………お前だけが居なくならなければならなかったんだ………お前のいないこんな世界に、いったいどれほどの価値がある……」
伸ばした手を抱いて、大いなる母は独り、絶望を揺蕩う。
「…………お前に会いたいよ、咲和」
頬を伝う涙は拭われることはなく、カーネーションを静かに濡らすだけだった。




